第5話
そして、あれよあれよという間に、ひと仔さんの手術の日が来た。
夜中に病室に黒いスーツの人達が十人程来て、私を車椅子に乗せて、病院をエレベーターで降りた。
病院の前には黒い大きなリムジンが止められていた。
久々の外の空気は冷たくて澄んでいた。
そのままどこかに連れて行かれると、森の中の大きなお屋敷があった。
すると、そのお屋敷の中に入ると大きなステンドグラスがあった。
そのステンドグラスの横には中世の外国の様なレトロなエレベーターがあった。
そのエレベーターに載って四階まで行くと、エレベーターの扉が開き、広くて長い廊下があった。
そのまま、一番奥の部屋へ行くと、まるで昔のかっぽう着のような手術服のひと仔さんがいた。
「これからここまま手術に入りますが、整形と性転換もご希望でしたね?どんな見た目になりたいのですか?」
「え?」
「私は、なんでも手術出来るんです。癌が治って、これからさつきさんの第二の全く違う人生……好きな見た目にしたいじゃないですか?」
「……見た目の事なんて、全然考えてなかった。」
「そうなんですか?」
「うん。」
「好きな芸能人の顔でもいいんですよ?」
私は悩んだ。
「……やっぱり。手術だけで!」
「と、申しますのは?」
「普通の女の子として生きていきたいの。学校へ行ったり、歳の近い男の子と普通にデートしたりしてみたい!やっぱり私、自分の顔好きだし!」
「かしこまりました。それでは、癌の手術のみですね。それでは手術を開始します。まず全身麻酔から……。」
気が付くと病院から付けてきていた点滴が、別の点滴に変わっていた。
そして、麻酔が段々と効いてきて、私は深い眠りに落ちた。
ーーーーーー
目が覚めると、私は別の部屋に寝ていた。
まるで、昔読んだ絵本の世界の中の様なベッドとお部屋。
私は白いレースのネグリジェを着ていて、点滴も外されていた。
ふらつく脚で部屋の中のドレッサーを見ると、なんと髪の毛が昔の様に生えていたのだ。
相変わらず痩せこけてはいるものの、前の手術痕や流動食用のチューブも、その手術跡も綺麗に無くなっていた。
「嘘でしょ?夢みたい!」
……コンッコンッ。
部屋の扉がノックされた。
扉が開くと、ひと仔さんが入ってきた。
「さつきさん。目が覚めたんですね。」
「ひと仔さん……。本当に夢みたい。」
「夢ですか?」
「だって!髪の毛も!傷跡も!」
「だから言ったじゃないですか。私に治せないものはないって。」
「本当に……ありがとう!」
「いいえ。さつきさん、お腹空きませんか?」
「……空いたかもしれない!」
「では、こちらへ。」
ひと仔さんに案内されてエレベーターに乗って二階へ行くと、また映画の中の様な大きくて広い部屋と大きなテーブルがあった。
そこに座ると、メイドさんが銀のお皿に乗っけられたオムライスとナポリタンを持ってきた。
「これ……私の好きな食べ物。」
「そうなんですか?」
私は、涙が止まらなくなった。
「さつきさん?」
「ごめんなさい。」
いつも大変なお仕事の後は、夜遅くなっていたから、その時だけお母さんと近所のファミレスでの夕飯だった。
子供の頃はお子様プレートで、そのメニューがオムライスとナポリタンだった。
お子様プレートが頼めない年齢になった時、お母さんがオムライス、私がナポリタンを頼んでふたりで半分こして食べていた。
本当は、ハンバーグでもカレーでも何でも良かった。
ただ、そのファミレスの時間だけ唯一、マネージャーでもなく、私だけの“お母さん”だった。
だから、このお子様プレートみたいなオムライスとナポリタンが出てきた時に涙が出たのだ。
「お母さん……。」
「さつきさん。」
「お母さんに会いたい。」
「違う土地での、違う人生はよいのですか?」
「うん!なんだかんだ癌になってからお母さん友まともに話も出来なかったから。」
「いいんですか?それこそお母さんの所……いえ、世間に戻ればメディアの注目のネタにされますよ?」
「それでも……帰りたい。」
「さつきさんがそう望むのなら何でも叶いますよ。」
なんでも叶う?
本当に夢じゃないんだよね?
だって、ひと仔さんって確か……アパートに住んでるって……。
「さつきさん?」
「ううん!なんでもない!」
そうよね!
きっとこのお屋敷とかもお客様からのサポート7日も知れないよね!
ーーーーーー
後日、ひとりの女性アイドルの訃報のニュースが小さく報じられた。
ーーーーーー
「お父さん、お母さん。ごめんなさい。
今回の手術は、お金を取らなくて。というか、取れないよね。
売れでない芸能人。中途半端な反社会的勢力との関係。こちら側が、あまりにもリスキーすぎて。
それに、さつきさんの手術を成功させても彼女は、果たして幸せになれるのかなって、考えてしまって。
新しい顔と性別で、新しい土地でなんて生活出来っこない。
でも、さつきさんは小さな頃から大人の都合のいい様に扱われながらも精一杯生きた。
だから、さつきさんにはこれから、さつきさんの望むだけの人生を生きてほしい、と思ったの。
さつきさんは、表向き治療の末亡くなった事になっている。
でも、本当は、脳の手術をしたの。
さつきさんの脳は生き続けてる。
さつきさんは、このまま“さつきさんのしあわせな望む人生のまま”火葬される。」
ちいさなアパートの部屋で、ひと仔さんは、パソコンを開いていた。
お父さんとお母さんは、相変わらず話を理解しているのかもわからないが、お皿に載っけられた人肉をモシャモシャと喰べていた。
そして、ひと仔さんのiPhoneが鳴った。
“#人喰いのひと仔さん”
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