薬指の爪を切ること

 呪いの触媒として爪を利用する。不気味だ。輪をかけて不気味なのは奇怪なメソッドに反してNが普通の主婦に見えること。

 とはいえだからこそ人として許せなかったのだと思う。またその手段について知りながら、そうまでして憎悪を消化したいとする自分も許せなかったのだと思う。人として何が正しいかはわからない。残された子のことを思えば違った見方になる。
 あの日あの夜、祖母の背中を見なければ、出会った男が不義理でなければ……これらもまた仮説に過ぎず、全ては起きた事柄を拾うしかない。宮沢賢治はこう書いた。本当の幸いとはなんだろう。Nの心情を思えばやるせなさは募るばかりだ。