恋とは愛とはなにか、を問う恋愛小説。

 恋とか愛とか好きとか、そういう想いを綴ったものが一般に恋愛小説と呼ばれますが、本作はそういったものが生まれる前、もしくは生まれた直後の、まだはっきりそう呼んでいいかもわからない感情を巧みに描いています。
 季節とともに毎日変わる空の色、なんでもない風景の移ろいが、主人公の日常に重なって消えていきます。過ぎていくものを忘れていいのか、今逃せばもう二度と手に入らない大切なものではないのか――。どこが行き先なのかもわからず生きる主人公の歩みを思わせます。
 大切だが好きかどうか判然としない異性、その基準となるはずの好きという気持ちの定義。それらの曖昧な存在に対して、何もできない無力感、意志とは無関係に変化していくことへの戸惑いは切実で、美しくもありました。