その後

 あとから分かったことだが、当時エミは職場で壮絶なパワハラを受けていた。

 彼女の勤務する広告代理店は体育会系で有名な社風で、帰宅が朝の四時五時になるのは当たり前、上司からの罵声や暴力も日常茶飯事だったという。

 真面目で勝ち気だった彼女は誰にも相談することができず、ただ頑張ることができない自分をひたすらに責め続けた。

 結果、極度のうつと睡眠不足に陥ったという。


 無断欠勤を繰り返す彼女に対して、会社はあっさりと彼女を見捨てた。

 だがここまでのことが分かったのは、エミの両親が必死に、彼女の書き残したものや勤務状態を調べ上げたからだ。

 弁護士も交え、彼女の周りの人間への聞き取りなど、丁寧に調査を行った。

 会社がようやく非を認めるようになったのは、両親が訴訟の構えを見せたことと、世間に訴えるべくマスコミに情報を流したからに他ならない。

 自分の娘に対する仕打ちに、両親はとても怒ったのだ。


 彼女は壊れる寸前だった。

 いや、すでに壊れていたのかもしれない――。


 引っ越しの話も迷惑な隣人の話も全部彼女の空想だった。

 だけど――、とわたしは思う。

 彼女の中ではすべてが現実だったに違いにない。

 彼女はその現実を生き、その中で起こった出来事を、悩みを、自分に電話で相談してきたのだ。

 職場に対する不平や仕打ちなどを一切打ち明けなかったのは、一種の防衛本能としてすでに記憶を切り離していたのかもしれない。


 わたしは両親から一冊のノートを見せてもらった。

 彼女の部屋に残されていたものだ。


『ペットショップは確かに賛否両論あるが――』という内容から始まって、生体販売に関する批評のような内容がずらずらと書き連ねられていた。

 動物好きの彼女が、きっと精神の拠り所にしていたのだろう。


 わたしは昔日のエミの笑顔を思い出す。


 ――ペットショップじゃなくてね、保護施設から動物を迎えることが夢なんだ。


 彼女はきっと、自分の世界の中で夢を叶えたのだろう。

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隣人ガチャ チューブラーベルズの庭 @amega_furuno

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