第168話 邪神の化身

 天人族たちは元の場所に戻り、また、リゼルたち天人族に誘拐された人たちも、無事にそれぞれの街に帰すことができた。

 一件落着である。


 今回の出来事のお陰で、天人族の多くが俺の信者になったのが最大の戦果だろう。

 それともう一つ。


「ガーッ! オーッ! グアーッ!」


 クラン本部の地下に設けられた牢屋。

 その中でもすべてがオリハルコンで造られた最高硬度の檻の奥に、ボサボサの黒髪を振り乱しながら、野人のような雄叫びを上げている少年の姿がいた。


 見た目は十二、三くらい。

 服を着せようとしてもビリビリに破いてしまうため真っ裸だし、歯を剥き出しにして常に咆え続けているしで、狼に育てられた子供のような野性っぷりだが、顔はびっくりするほど端正で、美少年と形容しても構わないほどだった。


「そう警戒するなって」


 言いながら転移魔法で檻の中に入ると、少年は即座に躍り掛かってくる。

 その勢いを利用して投げ、組み伏せた。


「ムガーッ! ウオーッ!」

「まるで懐く様子がないな……」


 ジタバタを暴れ続ける少年に、思わず嘆息する。

 しかしここまで手を焼くとはな。


 実はこの少年、バハムートが人化した姿だった。


 あのとき翼を切り裂かれて地上へと落下していったバハムートは、山の斜面に激突し、しばらくはまともに飛ぶこともままならない状態だった。

 もちろんトドメを指すのは簡単だった。


 しかしせっかくの伝説級の魔物である。

 このまま殺してしまうのも勿体ない。


 今までの伝説級の魔物たちは皆、俺の従魔兼信者になっているしな。

 ……それぞれクセが強くて扱い辛いが。


 というわけで、わざわざ捕獲して連れ帰ってきたのだった。


 だが〈魔物調教+10〉を持ってしても、ご覧の有様だ。

 なかなか懐いてくれやしない。


 とりあえず俺はいったん牢屋の外へ出た。


「飯だ」


 孤児院の院長であるレベカが作ってくれた料理を与える。

 今日のメニューは、この世界の子供たちにも大人気のカレーライス。


「ウオオオーーーッ!」


 するとバハムート少年は涎を散らしながら一目散にそれに飛びついた。


 ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!


 俺のことなど忘れて、野性味あふれる犬食いで一心不乱に食いまくっている。

 ちなみにいつも十人前は食べる。


「食い物にだけは心を許してるんだけどなぁ」


 まぁ地道に調教していこう。




    ◇ ◇ ◇




 フェニックス母娘を連れ帰ったり、天人族の一件を片付けたり、あるいはバハムートを手懐けようとしたり。

 地上でも色々と忙しい日々を送っていたが、もちろん地下世界でも新米魔王として大車輪の働きをしていた。


 その甲斐あって、かなり地下世界の状況も落ち着いてきた。


 俺が魔王の座に就いた後。

 予想通りと言うべきか、各地で反乱が勃発した。

 人間が魔王など冗談ではない、むしろ我こそが魔王に相応しいと主張する悪魔たちが次々と現れたのだ。


 配下に任せることもできたのだが、俺はあえて自ら現地に赴き、それらを一つ一つ鎮圧していった。


 俺に会う前は随分と調子のいいことを言っていた悪魔たちも、圧倒的な力で捻じ伏せられてはもはやグウの音も出ない。

 どいつもこいつも例外なく大人しくなった。


 やっぱ武力って分かり易いよな。


 そうした地道な努力(?)が実って、反乱を起こそうなどという愚かな悪魔は目に見えて減っていった。


 さらにそれに伴うようにして、だんだんとある噂が広がっていく。

 きっと俺の強さを目の当たりにした悪魔たちが語る恐怖に、尾鰭が付いていったのだろう。


 ――あいつはどう考えても人間じゃねぇ。

 ――かと言って悪魔でもねぇ。

 ――そのいずれをも超越した〝何か〟だ。


 やがて、その曖昧だった〝何か〟が、時を経るにつれてだんだんとあるものへと収束していった。


 ――あいつは邪神の化身だ。


 はい。

 そうです。

 俺は邪神です。

 化身というか、邪神そのものです。


 いや別に俺が自分で手を回してその言葉を広げた訳じゃないぞ?

 気づけば悪魔たちが勝手にそう噂していただけだ。


 人間を自分たちのトップにいるのは気に喰わないが、相手が邪神の化身だというのなら仕方がない。

 もしかしたらそうやって、悪魔としての自尊心を納得させようとした結果かもしれないが、奇しくもそれは真実を突いていた。


 そんなこんなで、魔界には「俺=邪神」信仰が急速に広がっていったのだった。






『いやー、ほんと助かりました、レイジさん。お陰で天界の神たちもホッと一安心してますよ』


 ある日のことである。

 俺が魔王の地上侵攻を食い止めたことで、女神ソリアが礼を言ってきた。


「いや、別にあんたらのためにやった訳じゃないしな」

『ツンデレ!? ついにレイジさんのデレ期が来ました!?』

「デレてねーよ。今のは言葉通りだ」


 俺にとっても地上を荒らされるのは困るからな。

 だから対処しただけだ。

 正直、天界のこととかはどうでもいい。

 そもそも邪神が天界のために動くとか、おかしいだろ。


『けどまさか、そのまま魔王になっちゃうとは思いませんでしたけど。しかも悪魔にまで信者を増やしちゃってますし……どこまで行っちゃうんですかね?』


 天人たちに加え、魔界に棲息する悪魔たちにまで信者が増えたこともあり、総信者数は気づけば二百万人を超えていた。



 総信者数:2036129人(人外含む。以下同)


 信仰度内訳

  100%:6人

  90%以上:17人

  80%以上90%未満:52人

  70%以上80%未満:313人

  60%以上70%未満:2591人

  50%以上60%未満:36943人

  40%以上50%未満:97473人

  30%以上40%未満:192472人

  20%以上30%未満:348009人

  10%以上20%未満:569322人

  1%以上10%未満:788931人



 悪魔の信者たちは一体一体のレベルが高いこともあって、大量の経験値を得ることができている。


「ちなみに女神ソリアの信者はどれくらいいるんだ?」

『……聞かないでください』



 Q:女神ソリアの信者数って?

 A:全世界で5万人ほど。



「なるほど、五万人か」

『ちょっ、勝手に調べないでくださいよ!?』


 どーせ私は下級神ですよー、と拗ねたように口にする女神。



 Q:最も信者数が多い神は?

 A:太陽神ラーナ。全世界で5980万人ほど。



 ふーむ、やはり太陽の神というのはどの世界でも広く信仰されているものなんだな。


 この世界の総人口は地上で約2億。

 その四分の一以上が信仰しているという計算になる。

 一方、地下世界の悪魔の数は1000万くらいらしいが、地下の住人だけあって太陽神への信仰は皆無だとか。


「よし、ここまで増えたんだし、次は太陽神を超えてみるか」

『……そろそろ満足しても良い気がするんですけど?』



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ここでひとまず完結となります。読んでいただきありがとうございました!


新しく連載はじめています。よかったらこちらの作品も読んでみてくださいm(_ _)m

『栽培チートで最強菜園 ~え、ただの家庭菜園ですけど?~』https://kakuyomu.jp/works/16816452221442079065

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邪神無双 ~邪神が黒い笑顔で人助けを始めたようです~ 九頭七尾(くずしちお) @kuzushichio

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