故人からの手紙に、遺された者は何を見るか。

死にゆく人は、何のために遺言を残すのでしょうか。
これは、生前の故人から預かった手紙を配達する、ちょっと変わった業者のお話です。

母親から、折り合いの悪かった我が子へ。
身寄りのないボランティアの男性から、かつて手を差し伸べてくれた恩人へ。
手紙を運ぶだけの配達人は、遺す者と遺される者の人生の、ほんの一幕にしか居合わせません。

人間関係の機微や場の空気感まで描き出す精緻な筆致は、本当にそんな人々が日本のどこかにいるのではないかと思わせるほどリアル。
配達人の視点からは見えない事情も、想像の余地を残しつつ、「遺される人の人生はこれからも続いていくのだ」という確かな重みを実感させます。

配達人が遺言を渡す時。
それは、遺す者の辿ってきた道と遺される者のこれからの道が交わる時です。
『遺言』を表す名詞【will】が、未来を表す助動詞でもあるように。
この先も生きねばならない人の人生に、きっとあなたも思いを馳せるでしょう。

紙の本で読みたい、なんなら実写ドラマでも見てみたい作品です。
もっと多くの人に届きますように。

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