登録してまだ日が浅いんですが、一番の衝撃でした。
とにかく沢山の本を読んでいる方とお見受けしました。語彙力に富んでいて、表現が豊かです。地の文は多めですが、文章が上手いので苦にはなりません。
相続に関する法律の知識なども深くて、感嘆しました。題材は重いですが、誰しも避けては通れないものです。読み進めると、改めて死について自分がどう向き合うべきかを問われることになります。
キャラクターや設定に対しての掘り下げが、驚くほど深いです。設定に対して、キャラクターが忠実に動くので破綻がなく、息遣いを感じます。俯瞰の視点で物事を語るシニカルな島崎と、直感で物事を見通す感受性が豊かな夏目の対比も面白いですね。
作中には伝えたいメッセージやテーマ性が浮かび上がるんですが、押し付けがましくなく嫌味も感じません。そういったバランス感覚も優れているのかもしれませんね。見習いたいです。
そこはかとなく、作家性というものを見せつけられた思いです。嫉妬とかではなく、純粋に敬意を払いたいです。多くの人に読んでもらいたいですが、なにより運営の人とか、出版関係の人の目に止まることを祈ります。
死にゆく人は、何のために遺言を残すのでしょうか。
これは、生前の故人から預かった手紙を配達する、ちょっと変わった業者のお話です。
母親から、折り合いの悪かった我が子へ。
身寄りのないボランティアの男性から、かつて手を差し伸べてくれた恩人へ。
手紙を運ぶだけの配達人は、遺す者と遺される者の人生の、ほんの一幕にしか居合わせません。
人間関係の機微や場の空気感まで描き出す精緻な筆致は、本当にそんな人々が日本のどこかにいるのではないかと思わせるほどリアル。
配達人の視点からは見えない事情も、想像の余地を残しつつ、「遺される人の人生はこれからも続いていくのだ」という確かな重みを実感させます。
配達人が遺言を渡す時。
それは、遺す者の辿ってきた道と遺される者のこれからの道が交わる時です。
『遺言』を表す名詞【will】が、未来を表す助動詞でもあるように。
この先も生きねばならない人の人生に、きっとあなたも思いを馳せるでしょう。
紙の本で読みたい、なんなら実写ドラマでも見てみたい作品です。
もっと多くの人に届きますように。
あまりにも素敵な作品で、読み終えたあといつも余韻に浸ってしまいます!
遺言を巡る物語であり、まぎれもなく「死」がそこにあるんですが、暗いだけのお話ではありません。遺言を遺した方の歩んできた人生は誰かの人生と交わっていて、その交わりを経てまた先に進んでいきます。何が善であり何が悪だと割り切れないことも多いですが、交わりの数だけ人の思いは存在します。遺した人と遺された人。それぞれの思いや人生を丁寧にすくい上げる作者様の手腕は、もはや脱帽としか言いようがありません。
この素敵な小説、いえ、多くの人の思いが紡がれた「手紙」が、一人でも多くの方に届きますように。