ホワイトデーの配信終了後、お疲れ様でした!

「今日もお疲れ様でした~! 忘れ物とかないよね?」


「大丈夫だと思いますけど、最後に確認しておきますね」


「うん。やっぱ燃えてるなぁ……こうなるってのはわかってたけどさぁ……」


「人間、諦めが肝心っすよ。面白おかしくやれましたし、みんなも楽しんでくれたんだから、それでオッケーってことにしておきましょう」


 配信終了後、スタジオを後にする零は女性陣の会話を聞きながら兄貴分を慰めていた。


 燃えてはいるがガチの炎上ではなく、笑って済ませられる程度の小火だから別に構わないかと、炎上というものに慣れてしまった特異な立ち位置にいる彼からの励ましの言葉を受け止める優人は、複雑な表情を浮かべている。

 色々と確認してくれた有栖と澪と合流し、残っていたスタッフたちに挨拶をして……時間を確認すれば、日付が変わるか変わらないかといった頃合いになっていることがわかった。


「ホワイトデーももう終わりですね。特に感慨とかはないっすけど」


「でもまあ、いい一日になったことは間違いないね。お返しもこんなに貰ったしさ」


 本来ならば女性陣にバレンタインのお返しをすべき男性である零と優人だが、その手にはスタッフや同僚たちから貰ったお菓子やらなんやらが詰められた袋がある。

 逆チョコをしていた彼らはどちらかというとお返しを貰う側の人間のようで、思っていたよりも義理堅い職場の人々の反応に嬉しくも困ってもいるようだ。


「そうそう! 愛しの彼女たちから三倍返ししてもらったんだからさ、いい思い出として胸に刻み込みなよ~!」


「私はほとんど何もしてないですけど……ほとんど須藤先輩にやってもらっちゃったんで……」


 そんな男性陣の会話に割って入った澪が、ニヤニヤと笑いながら優人の脇腹を肘で突く。

 有栖もまた消極的に呟きつつ、零へと視線を向けていた。


 そう……彼女たちが言うように、男性陣は二人から三倍返しでホワイトデーのプレゼントを受け取っている。

 配信でも話題に出た裸リボンの絵とおっぱい&お尻マウスパッド。そして、最後の一つが……手作りのお菓子だ。


 バレンタインのリベンジ、という形で作られたフォンダンショコラ。それをかわいらしくラッピングしたものが、零たちの鞄の中に入っている。

 優人はもちろんだが、零もまた恥ずかしそうな表情を浮かべる有栖からそのプレゼントを渡された時、言いようのない温かさが胸に満ちたことを覚えていた。


「感謝してます、本当に。ありがとうございます、って感じだね」


「よろしい! あたしたちに感謝しつつ、よ~く味わって食べなよ!!」


「わ、私はあんまり味わってほしくないっていうか、自信ないからなぁ……」


「気持ちが籠ってるならそれだけで十分嬉しいよ。ありがとう、有栖さん」


 改めてプレゼントしてくれた女性陣に感謝しつつ、そんな会話を繰り広げつつ、優人の車に乗り込む一同。

 助手席に座ってシートベルトを着けた澪は、そのまま後部座席に乗り込んだ零と有栖の方へ振り向くと二人へと質問を投げかけた。


「零くんと有栖ちゃん、まだおねむじゃない? だったらさ、もう少しだけ遊ぼうよ!」


「俺はいいですよ。有栖さんはどう?」


「私も大丈夫です。でも、どこに行くんですか?」


「この時間だと、開いてるお店も限られるしね……二人はまだ十九歳だし、お酒はダメだってことを考えると、行けるのはファミレスくらいかな?」


「どこかでジュースとかお菓子とか買ってさ、またゆーくんちでパーティーとかでもいいんじゃない? お泊り会しようよ、お泊り会!!」


「いいんですか? 折角のホワイトデーですし、お二人だけで過ごすつもりだったんじゃ……?」


 時間は遅いが、まだもう少し話していたいという気持ちがあった零たちが澪の誘いに乗る。

 どこかのお店で駄弁るのかと思いきや、優人の家でお泊り会をする流れになっていることに若干の申し訳なさを感じる零へと、車のエンジンを吹かした優人が言う。


「気なんて遣わないで大丈夫だよ。ホワイトデーなんて大した日じゃないし、そもそももう終わりかけてるしさ」


「二人で会おうと思えばいつでも会えるしね! 今日はほら、後輩カップルのてぇてぇをもう少し見守りたい気分だから、遠慮しないで!」


「私たちは別にカップルってわけじゃないんですけど……」


「でも、お二人がそう言ってくれるのなら、お言葉に甘えましょうか」


「おっけ~! なら、買い出しだ! コンビニ行こう! コンビニ!!」


「コンビニは高いから、二十四時間営業のスーパーに行こう。ちょっと遠回りだけど、別にいいよね?」


 優人の問いかけに頷きで返しつつ、苦笑する零。

 先ほど優人はホワイトデーなんて大した日じゃないと言っていたが……確かにその通りだ。

 友人と仲良く話して、夜更かしして、お泊り会を開く、なんてことのない日。その口実に使う程度の日だと思うと、なんだかちょうどいい感がある。


 まあ、同僚のR17.9絵やお尻マウスパッドを貰う日がなんてことのない日かと問われると微妙なところなのかもしれないが、それを特別な日だとも言わないところが今の自分たちの日常が如何に濃いかという証になっているのだろう。


「そうだ! ゆーくんちに着いたらさ、あたしたちのマウスパッドの感想聞かせてよ! 柔らかさとかサイズ感とか話を聞いて、今後の参考にさせていただきます!!」


「……それってつまり、何かの折に発売される可能性があるってこと? なんか嫌だな……」


「ふふふっ! いーじゃん、別に! ゆーくんの場合、マウスパッドじゃなくて本物のおっぱいを揉み放題なんだからさ! 零くんもほら! 芽衣ちゃんのお尻マウスパッドの発売が決まったら、その対価に有栖ちゃんのお尻を好きなだけ揉めるって考えたら、悪い気はしないでしょ!?」


「ぴえっ……!?」


「揉まないっす。どんな交換条件っすか、それ? っていうか、俺と有栖さんをお二人の空気に巻き込まないでくださいよ」


 完全にアウトな澪のセクハラを苦笑しつつ受け流した零は隣に座る有栖が、こそこそと自分のお尻を隠すように手を回している様子を見て、浮かべている笑みを強める。


 先輩カップルのねっちょりに巻き込まれて変なことにならないように、まだまだ注意が必要だなと感じながら……それでも、待ち望んでいた楽しい時間を四人で過ごせることを喜ぶ零は、有栖たちと一緒に朝まで話し続け、夜を明かすのであった。






――――――――――


ホワイトデーのお話はこれで終わりです!

次はマリちゃんのお話を予定しています!

更新まで少々お待ちください!

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