本音で語ろう、野郎ども

「……それ、本気で言ってる? っていうか、ズルくない? 僕たちに決定権を握らせるなんてさ……」


「今日だけは許されるからね! それに、さっき言ったでしょ? 吹っ切るためのきっかけをあげるってさ!」


 にしし、といつものように笑う紗理奈の言葉に、頭を抱えるオリオン。

 いくら何でも悪ふざけが過ぎるとは思うものの、ホワイトデーという日のこの空気感の中でなら、彼女のムーブも許されそうだというのも事実だ。


 かといってここでこのマウスパッドの販売についてあれこれ言ったら、それはそれで後を引く問題になりそうじゃないかとコメント欄を見た彼が思う中、隣に座る枢が口を開く。


「俺は……嫌だなぁ。俺が反対するだけで芽衣ちゃんのマウスパッドの発売が止められるなら、反対させてもらいます」


「えっ……!? く、枢くん……!?」


【てめえええええっ! 枢ぅぅぅっっ!! どうしても私に芽衣ちゃんのケツを揉ませない気かぁぁぁっ!?@清川乙女】

【よく言った! それでこそ男や!!】

【炎を恐れるくるるんが迷わずにNOを出すって……流石は芽衣ちゃんのためになら炎上を恐れない男……!!】


「ほほ~う! ちなみに、なんで反対するわけ?」


 割とあっさりと反対意見を出した枢へと、様々な反応が飛ぶ。

 色々言われる(炎上する)可能性が高い道を特に迷わずに選んだ彼に対して芽衣やリスナーたちが驚きの反応を見せる中、紗理奈はそこから一歩踏み込んだ質問をしてみせれば、枢はこう理由を述べた。


「デビューして間もない頃にセクハラしてくる奴がいましたし、こういうのを売った時にそういう輩が復活しないとも限りませんしね。今はもうDMは封鎖してますけど、いくらでも方法はあるわけですし……また芽衣ちゃんが嫌な想いをするのは俺としても嫌かなって」


「なるほどね。でも、本当にそれだけかな~?」


「まあ、純粋に俺も嫌ですよ。なんかこう、芽衣ちゃんのお尻が知らない誰かに揉まれるって想像したら、モヤっとしたのは事実ですし」


「そっか~! じゃあ、しょうがないけど芽衣ちゃんのマウスパッドを売るのは止めよっか! 愛されてて良かったね、芽衣ちゃん!!」


「あぅ……」


【よ~しよしよし!! よく言った! それでこそくるるんだ!】

【嫁の身を案じつつ自分の要望もちゃんと捻じ込む……! やるな……!!】

【ムキイイイッ! ウキィィィッ! 芽衣ちゃんのお尻マウスパッド寄越せぇぇっ!! 私をダシにイチャつくなぁぁっ!!@清川乙女】

【芽衣ちゃんが何も言えなくなってるのがいい……!】

【やっぱくるめいよ!】


 真面目な理由を先に出しつつ、その後でしっかり求められている答えも述べる。

 そんな枢の完璧な回答にリスナーも紗理奈もご満悦だ。(一部のリスナーは除く)


 こうなると、次に続く男には相応のプレッシャーがかかるわけだが……同時に、言いやすい空気ができてもいた。


「それで、オリオンく~ん? あなたはどうなのかな~?」


「うぐっ……!」


「覚悟決めましょうよ、オリオンさん。俺も言ったんですし、今なら素直になっても誰も怒りませんって」


【そうだぞ~! むしろこの流れでぐだぐだ言ってる方がダメだ!】

【オリオンの、ちょっといいとこ見てみたい!!】

【私は怒るけどな! むしろ許可出してくれれば怒らないし私とも和解できるぞ!!@清川乙女】


「すぅぅぅ……はぁぁぁぁ……! これ、あれだよね? ここで僕が何を言っても、僕じゃない僕が言ったってことになってくれるよね?」


「うん! みんな納得してくれるよ! で、どうなの? あたしのおっぱいマウスパッドを売るかどうかについて、オリオンの意見は?」


 ややあって、周囲から突かれたオリオンも覚悟を決めた……というより、ヤケクソになったようだ。

 息を深く吸い、思い切り吐き出して……何かのスイッチを入れた彼は、投げかけられた質問に答えを返す。


「絶っっっ対に……嫌だ。反対するだけで止められるなら、好きなだけ反対する」


「にゃはははははっ! いいね~! いい感じに重いよ~!! んじゃ、そのついでにあたしのこともちゃんと呼んでおこうか!」


「紗理奈。これでいい? っていうかあれだね。本当にぼかして言ってる方が重さと湿度がすごいね。今も十分湿ってると思うけどさ」


「いいの、いいの! こっちの重さはネタにできる重さだから! 面白おかしく弄れて、あたしたちも扱いやすくて助かるしね!!」


【オリオン! てめえ、裏切ったな!! 覚悟しろよ……!!@清川乙女】


「清川先輩の方こそ覚悟しておいてください。次に会う時はハリセンを用意しておきますんで。もう二度と手を出す気が起きなくなるまで叩きまくります」


【宣戦布告www】

【吹っ切れたオリオンはすごいなぁ(白目)】

【くるるんにマコトの姉御にオリオン……乙女死んだな】

【サラバ乙女!! お前のことは忘れない!】

【暴力に訴えるなんて卑怯ですよ! 私、女の子なのに!!@清川乙女】


「……枢くん、これでいいのかな? なんか、状況的には悪化したような気がしなくもないんだけど……?」


「う~ん……まあ、重さマシマシ湿度高めなのは変わりないけど、左右田先輩が言ってるように弄れるようになった分、マシなんじゃない?」


 ――そんなこんなで色々とはっちゃけながら、これでいいのかと冷静な面子に思わせながら、ホワイトデーの配信は続いていく。

 なんだかんだで楽しみながらトークを続ける四人は、ここからもリスナーたちを笑わせ、ツッコませ、尊死させる話をしては配信を盛り上げていくのであった。

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