ヒメコウゾ
古博かん
ヒメコウゾ
掌で、ころりとすると、ひひさんは、ポンと鳴った。
優しいお顔でじっとこちらを見て、ええ、いいですよ、と静かに、陰りのある微笑を浮かべている。目の前で、無邪気に喜ぶ
あくる日も飽くことなく、ひひさんと、きゃっきゃと遊ぶ可愛らしい声が、庭の端までよく響いた。 何かの拍子に、ひひさんが、ポンと音を立てると、その度に、紅葉のような手を打って、喜ぶ姿が
その可愛らしい手が、一回り大きくなった頃、よく響いていた笑い声は、弱々しく咳き込む音に変わっていた。頭も上げられない
すっかりと弱り切った指先を、震わせながら精一杯伸ばした、触れるか触れないかの、その先で、ひひさんは、全身を震わせて、ポンと鳴った。優しく物悲しい、小さな、とても小さなポンだった。
それが、ひひさんの立てた、最後の音だった。
その年が明けて、
緩やかな流れの浅瀬に、そっと降ろされて、幾重にもなる紙畳の上に、凛と腰を下ろし、前を見据えて流れていった。
弱々しかった
ひひさんが流されたと聞いて、涙に暮れた幾日かのち、嘘のように元気を取り戻した
あれから時々、空耳に、ポンと聞こえることがある。「あら、まただわ」と、小首を傾げながらも、娘さんは、心の内で、そっと囁きかけてみる。
ええ、いいですよ、と返ってくるかもしれないと、今日もまた、息を潜めて娘さんは、そっと耳を澄ませている——。
ヒメコウゾ 古博かん @Planet-Eyes_03623
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