欧州とイスラムがぶつかり合い雌雄を決する歴史大戦、十字軍。
宗教、文化、人種、そして戦い方。
全てが違う民族文化の総力を集めて挑むその戦いには、様々な英雄豪傑が輩出しぶつかり合い、生まれる人間ドラマ。
後に聖王と呼ばれるルイと、その優れた兄弟たちが率いる十字軍。
いずれも劣らぬ魅力的な兄弟は、まさにザ・騎士の軍勢。
これを迎え撃つイスラム軍の陣頭に立つのは、敵を見たら退いてしまうあんまり役に立たない凡将。
そして運命に弄ばれ寡婦となった美貌の王妃と、彼女に見いだされた衣装係の奴隷。その師匠のオリエンタル美女。
隠密が忍べば、騎士が戦闘を挑み、軍を率い、戦を読む。
ナイル川という異郷を舞台に繰り広げられる駆け引きと異文化間の戦闘。
様々な角度で惹きつけられるこの十字軍物語は、敵味方とも魅力的であり、多角的に描写されています。
これら英雄達が織りなす一大叙述は、きっと読み手を満足させてくれると思います。
一読いただければ、きっと共感してもらえるかと!
13世紀中ごろ、第7回十字軍を題材にした作品です。
『聖王の侵略』というのは、ちょっと逆説的な感じのタイトルですね。そこは、作者さんのねらいの一つかもしれません。
たとえば、カフェの席に座っているとき、
「そこ、おれたちが取ってた席なんで、どいてくれる?」
とか言われたら、面食らいますよね。
「え? 私も前から座ってますけど。取ってたっていつから?」
「そうねえ。えーっと、開店前から?」
ほとんど、たんなる嫌がらせ。十字軍って聞くと、こんなやりとりを想像してしまいます。
自分たちの信じる救世主が死んだ土地(エルサレム)は、異教徒の手に落ちていて、巡礼のお参りもできない。
「悪いけど、そこ、もともとおれたちの土地なんで、どいてくれる?」
「お前たちの土地って、いつの話よ?」
「えーっと、1000年ちょっと前?」
「ハァ?」
みたいな感じで始まる戦争(笑)。言われたほうも、はい、そうですか、と引き下がるような、ヤワな相手ではありません。
両者の戦争は、いわゆる「仁義なき戦い」ってやつになります。
いいかえると、両方の陣営は、これでもかとばかり、だまし合い、ばかし合い、出し抜き合う。敵から巧みに情報を盗んだり、まんまと罠におとしいれたり、ときには、味方同士でだまし合ったり……。
登場人物たちが、これまた人間くさく、したたかで、魅力的に描かれています。これも、作者さんの得意とするところ。とりわけ、エジプト側の女性キャラたちが、とても活き活きしています。
最後まで飽きさない物語です。
読者の皆さんはバイバルスを知っていますか?
私は知りませんでした!
世界には日本人にあまり知られてない、こんな凄い英雄がいたなんて! 世界はなんと広いのか。歴史はなんと面白いのか。
今、私の中ではバイバルスの名がアレキサンダー大王やナポレオンと並んで燦然と輝いています。
「どんな題材を選ぶか」は作家の才能の一つだと思いますが、その点でこのヒーローに目を付けた作者のセンスの良さを感じます。
合戦絵巻のようなダイナミックな戦闘描写やキャラクター達に魅せられると同時に(女性キャラクターも素敵!)、十字軍や諜報に関する蘊蓄も満載で、知的好奇心が大いに刺激される作品となっています。