パリスの審判

コーラカル

第1話・ヨーロッパのホテル

ホテルの一室は騒然となっていた。

この古いホテルに泊まっている病気の小さな女の子が、突如危篤状態になり、重体だというので、同じ階に宿泊していた泊まり客や、ホテルの従業員が総出で階内の廊下を行き来し、その子の部屋の前で大わらわにしていた。

「あの病気の子だ。」「あの先生に診てもらいにこの町へやって来ていた。」「どうなんだ?助かるのか?」

「サチッ!!!サチッ!!!」母親が半狂乱のていで娘の名前を呼んでいた。父親はただおろおろとしてさっきからあっちへこっちへ移動しているばっかりだった。

群衆からいっこはなれて向こうの長椅子に腰掛けた一人の青年はじっと黙ってその様子をみていた。

「危ないっ!! もっと、  お湯……!!」と既にへやへ駆けつけていた例の医師が怒鳴った。

女の子はベッドの上で、今にも消え入りそうな息をゼーゼィ咳と一緒に上へ吐き出しながら、混迷の度合いを深めていった。

「ダメっ!!サチ!!

 いっちゃ駄目っ!!!!」

母親は子供を抱き上げた。

パリスはなにも言わずにそこへ座ったままだった。女の子は徐々に衰弱の息を小さくしていって、その虚ろな目を閉じていった。

一瞬、女の子の目が向こうから自分を見つめているパリスと合った。それから次第次第に昏睡し遠く意識を離れていった。

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