第6話・藪
「あの子の足をみてくださいっ!!ガリガリになってしまってるじゃないですかぁ。」
医師が泊まっているホテルで、医師が診療録に書き込むその隣、母親は今までの経緯を話していた。
「前に診せた病院はろくに話も聞かないでっ!ウチの苦しみなどどうでもいい事のようにっ!どんなに大変だったと思います?!」
医師は母親の方を見ないで診療記録に書き込んだままうんうんと頷く仕草をしていた。
「仮病だって言うんですっ!!お母さんが物事を大きくしすぎてるって! 手だって震えて、しっかり物を持てないっていうのに、、」母親はそうしくしく自分の手を見て差し出した。
「あの子はあの日叫びました。「お母さん!助けてっ!」と。」
母親が近所の子どもらの母親友達に話をしていた。「だから私、無我夢中であの子を抱きしめました。」
母親たちは涙を浮かべるようにうんうん、と話に聞き入る顔振りをしていた。
「それで体中捩りながら叫んでわたしのことを掴むんです。私にしっかりしがみ付いて、まるでわたしなら何とかしてくれると言っているように、、 咳と一緒に血の混じった何かをたくさん吐きました。主人は私の手を握り続けてくれましたが、私はそれを振り切ってあの子を抱き締めていました。」
母親の一人は涙を拭ってうん。うん、と頷いていた。
「一日に40錠薬を飲んでるんです。毎朝、毎晩… 。 最初の病院では手術に40時間もかかりました。 痛そうで痛そうで、ご飯も食べられなくて。 昨日はお湯を一杯・・・ 。 時々は弱気になるんです。もう救いなんか無いんじゃないかって・・ 、
夫は娘の病気を受け入れられなくて、それで家に帰ってこなくなったの。」
自分の足で歩ける日に、サチはまたパリスのいるところへ行こうと、野辺の方へ歩いていったが、その道へ行く途中、偶然、それとは全然違うところで、パリスの後姿を見かけた。それでサチはそのあとをつけて行った。 パリスはどこかへ行く様だった。
パリスの入っていったのは、
大麻草の藪の中に、ガサゴソと八つ葉を払い分けて入っていった。すぐにハァハァ息が切れてきて、サチはパリスのあとが見えなくなった。自分より大きな大麻草の中で取り残されて、途方に泣きかけた時、パリスの手がどこかからサチを引いた。
「お前。付いてくるんじゃないよ。」
「どうして?あなた。」サチが言った。
「あたしはあなたの助手でしょう?」 —— そう言われてパリスは大麻草のなかにふんぞり返り、
「だって小さな助手ちゃん。人にこんな所見られたらきみは病院じゃなくて拘置所にいかなければならないよ。」パリスは投げ出した足で土を掻き、引きずるようにして自分の方へ戻し、潜めいた声でそう囁き言った。
「拘置所ってどういうの?」
サチにはその言葉の意味が分からなかったので反復して聞き返し、パリスは呆れた顔でそれ以上言わず、組んだ腕を
「だってあたしはあなたを手伝いたいんだもの。」
「僕は子供と一緒には遊ばない。」 パリスはそう振り返って言い置き、また密生した藪の中へ入って行ってしまった。
サチはパリスのあとを追っていった。
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