第7話・あの子のお父さん?

夜近く、ある道沿いのベンチの上、座りふける父親のその隣に、見知らぬ青年が急に腰かけてきた。

青年は後ろからベンチを一旦またいでそれからその上に座り、ポンポンと呼ばれる木の実を上へ放り投げては受け取り、受け取っては放り投げたりしていた。

父親は彼を見、

「きみはだ…、「皇帝カイザーできる?」口を開きかけた瞬間、青年が変わった投げ方の技をやって見してきた。高速に右から左へと投げ止めるその仕草に父親が閉口して無視し、前へ向かって向き直すと、

下りてきたポンポンを受け取って、「あの子のお父さん?」とパリスが声をかけてきた。

「何故私に…、」話し掛けるんですか?という続きまで父親が言え終えない内に

「これはなぁに?」とベンチに置いてある花束の事をパリスが父親に尋ねてきた。

父親は一瞬口籠って考えてから、

「———・・ 娘へのプレゼントです。」と答えた。

「ふん。」パリスが感心したように頷いて、

「かわいいピンクのお花、」と褒めた。

「— ありがとう。」父親は恐々としたように返事した。

「みんな帰る時間なのになぜ帰らないの?」投げたポンポンをキャッチして受け取る音が夕闇の中に響いた。

白いシャツと白のスラックスを着た青年が、湿った空気に辺りまで暗み青いなか、やたらと自分に話し掛けてくるので、いつの間にか父親は身の上の話をし始めていた。

「あの子が熱にうなされて苦しんでいるのを見るのが辛くて私は家に帰れなくなりました。仕事をやる気も無くしました。」

「 あの子が病気にならなかったら自分は仕事を続けられたのに。」

「あの子の為に今は何もしていません。」

「あの子が病気になってから私は何も出来ない。」

「うん。……… 彼女が病気じゃなかったら何するの?」一瞬間を置いた後パリスが口を開いて聞き直した。 「それは……  」 「社会の役に立つ事業をしたいと思ってます。医療施設の設立とか保険の仕事とか、そういう事をしていきたいと思ってます。」「うぅん。」パリスが感心したように頷いた。

「彼女が病気になる前は何してたの?」父親は一瞬口籠ったあと、「—— セールスの仕事をしてました。」「人々のためになる健康の… 健康器具の販売です。」父親は説明した。

両の手の平の中でポンポンを握り回しながらパリスが尋ねた。「娘の顔が辛くて見られなくて帰れない時は何してるの?」

父親は暫し考える素振りをして、「——…… 娘の回復をただひたすら祈っています。」「んー。」パリスはさらに感心したような相槌を打ち、こんなことを言った。

「近所の人は娘が苦しんでるのに酷い。って、」

父親は反論するように

「私だって何軒もの病院に電話しましたよ。 小児癌専門の病院も探したし、有名な医者に診せる為に遠くまで連れていったこともあります。手紙を書いた事だってあります! 治れ治れって心の中でいつも思ってます。」

ポンポンを片手にもったまま父親の顔をパリスは見ながら聞いていた。

「私達はあの子を愛してるんですっ!!」

「本当?」とパリスが言った。

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