第8話・審判

 サチの滞在しているアパートに、パリスはやって来ていた。

家は二間の小狭い部屋で、中は洗濯していない衣服やタオル類が散乱して取り散らかっていた。パリスはそれを嫌そうに足でどかしていた。

「お前一人でいるの?」パリスは部屋の中の様子を見回すようにしつつ尋ねた。

「お母さん今ご飯を食べに行ってるの。」サチが答えた。

「お父さんは?」

「お父さんずっと前からうちに帰ってこないの。」

パリスが部屋を一回りして戻ってきた。そしてサチに念を押した。

「誰も帰って来ない?」

「うん。」サチは頭を縦に振った。



サチの座っている前に、スッとパリスは中座りになり、目線をちょうど同じくらいの高さにして、改めてサチの顔をジロジロ見回した。

そしてパリスは尋ねた。

「生きていたいと思うの?お前は。」

サチはそう聞かれて、勢い良く「うん。」といい、それからコクンとうなずいた。



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小さな小卓を挟んで、パリスとサチが向かい合った。

いちごの匂いのする焦茶の煎じ湯と、黄色い苦い匂いのする煎じ湯と、二つをパリスは卓の上へ置き、「どっちがいい?」と聞いた。

「どっちでも好きな方を選んでごらん。」 そうしてどちらか一つを彼女に選ばせ、サチは興味深げに台に手をついてそれを覗いていた。そして、

「こっち!」

と勢いよくを指をさし、それから自分の選んだ黄色い方のお湯を取って、それを口へ持っていきコクコク飲みこんだ。

パリスはその飲んでいるのをジッと燃えるように見つめていた。

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