少年騎士に絡む、過酷な運命の“糸”の正体は……?

心優しくも孤独な少年カート。精霊の言葉にすべて従う国の中、彼が騎士として成長していく王道ファンタジーです。

主人公の登場までには少し時間があり、少し昔のお話からはじまる導入部分。これが私はとても好みで……!この登場人物たち(もちろん大事なキャラばかりです)は、数年後にどうやって主人公と絡んでいくのかと考えると、まだ登場していないカート君のことが気になって仕方なくなるという笑 

そんな、たくさんの伏線に彩られていよいよ登場する彼ですが、これがまた素朴で可愛らしい少年なのです。あまりにも丁寧さがすぎると卑屈に思えてもくるものですが、彼にはそんな気持ちも全然沸かなくて。本当にそつがなくて美しく、純度の高い宝石のような少年です。その透明度が時に、危うく思えるほどに。このあたりのバランスも本当にお上手で、安心の中にもどこかハラハラが絶えず漂っている感覚です。

城で出会う人物もまた、彼にとっては敵味方様々。高潔な騎士団長に、美しい女王。不思議な態度を見せる宰相に、絵に描いたような嫌がらせをしかけてくる(ほんとすき)先輩。そして、カート運命を変えていく人形使いの青年――。表情豊かなキャラクターたちによって、カートはいよいよ自分の運命と対峙していくことになります。

精霊の言葉を至上とし、自分たちで動こうとはしなくなった平和な国。その中でうごめく陰謀に気付いたカートは、身体と頭を使ってどんどん問題へと切り込んでいきます。このあたり、ミステリ要素もあってとてもワクワクしました。

そして一番丁寧に描かれていると感じたのが、カート少年の心の成長です。完璧な所作を誇るこの少年ですが、そのうちに抱えているものも実はたくさんあって。知らずと押し込めていた栓が抜けるシーンは、涙なしでは見られない感動がありました。アツい……!泣

堅実な努力と推察によって進んでいくカートの姿は見ていて気持ちがよく、素直に応援したくなる魅力にあふれています。優しさと成長、そして少し切なくてやはり温かい愛がからまった、運命の“いと”の物語。だれの心にも刺さる名作だと感じました。続編もたっぷりあるようなので、今から楽しみです!

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