信念とともに、実行キーを押して。コミュ障ハッカー、孤高の戦い!

自室に引きこもっているハッカーの真直。彼はある日、美人教祖を崇める集団『サルベイション』の名を耳にする。

どんな罪にも許しを与え、優しく再起を語りかけてくる教祖、天音アムレア。美しく気高い彼女はまさに、現代の『救済の女神』と呼ばれる存在だった。ビデオチャットやオンライン説明会など現代らしいツールを駆使してラフに、そしてフレンドリーに信仰を呼びかけるその集団の情報を、真直は信じられない想いで見つめていた。

それもそのはず。過去に教祖『天音アムレア』はすでに自殺し、教団も壊滅している。間違いない。
なぜならその煽動者は他ならぬ、真直自身だったのだから――。

完全なる救済のため蘇ったという女神。
コミュ障ハッカーはふたたびその嘘のヴェールを引き剥がすべく、キーボードを叩く!





終盤までのほとんどが、「自室のPCに向かい合う主人公」という書き手泣かせの構図です。しかし真直くんの理路整然としたするどい思考に読者もすぐに取り込まれ、なんだか自分がデキるハッカーになったかのようなスリリングな駆引を体感することができるのがなんとも不思議でした。いや真似しちゃいけませんよ!

添付の画像にプログラムを仕込んだり、あるいは別人のアカウントを作って会員の情報を抜き取ったり。はい、もちろん悪いことですね。しかし真直くんには、そんなアウトローな手段を用いてでもかの教祖の謎を暴く必要があったのです。それは彼が過去に追った傷と罪の物語ですが、この時点でも「正義か悪か」の問いかけがびしばしと読者へと投げつけられます。

本当の釣りのようにネットの海のあらゆる場所に餌や罠をめぐらせ、そうやって掴んだ小さな手がかりを次の捜査へと広げていく。絶対に怪しまれてはいけない。相手は過去にリンチ事件も起こしたような危険な集団です。一手でもしくじれない情報技術&心理戦はドキドキの連続で、いつも章の切れ目まで読み終わってようやく「っっはあああああ」と呼吸を思い出すほど。現代サスペンス、こんな形になったんだ…!という新風を感じました。

サラサラとプログラムを作り上げていく真直くんはとても淡白です。もっぱらの話し相手と言えばPCアシスタント的存在の『エコー』だけ。そんな彼の視点なので、文章自体もすっきりしていて淡々とした作業風景が描かれています。しかし彼の過去の傷や、悩み苦しむ信者たちの葛藤、そして物語が急転する終盤では深い人間ドラマが光ります。

そう、どんなに無機質に過ごしていても彼は全然完璧なロボットではなく、失敗や苦しみと共に歩む人間なのです。機械と人間は、どちらがより完璧な救いを、あるいは深い絶望をもらたすか――作者さんはそんな難しい問題に果敢に挑んでいるように見えました。

決して「チートなウイルスをばら撒き、悪の教団をスカッと壊滅!」という単純な話ではありません。悪を倒すことは時として、より多くの悲しみを生み出す結果につながることもある。そんな不安定な判断しかできない人間よりいっそ、完璧なプログラムにすべてを委ねてしまえれば……?そんな気持ちさえ浮かんでしまうほど、現実は残酷です。

けれどそんな闇の中、真直くんは過去の自分の罪と向き合い、現在の彼として決断を下します。


どんなラストが待っているか、ぜひその目で確かめてみてください。

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