8月第4週

 夏祭りの当日がやって来た。

 問題なく彼女を誘うことに成功した私は、今現在、彼女の到着を待ちわびている。

 ちなみに、言葉の綾で同時参加することになったわたりは、既に、連れてきた別の女子と共に、この場を去ってしまった。


 時刻は午後6時。日没まであと一時間というところで、彼女――明保野ほのかが到着した。

 ギリギリだ。これ以上後なら、暗闇の所為で彼女と会うことができなくなっていたかもしれない。


 待ち合わせより一時間近く遅れてやって来た彼女の姿は、この会場にいる誰よりも美しく着飾った、艶やかな着物姿だった。


「ごめんね。会場までの電車が込んでて」

「大丈夫、私も今来たところだから」

「……方便ね」

「一度言ってみたかったんだ」

「ふふふ、可笑しな人。

 ごめんねついでに、屋台で1個驕るわ」

「ありがとう」


 そうして、私たちは人込みの中へと足を進める。




 夏祭りでの行動計画は、次の通りだ。


① 屋台を見て回る

② 屋台で景品を彼女にプレゼントする

③ 彼女と一緒に花火を見る

④ そっと手を握り、彼女に告白する


 これはすべてわたりが計画したものだ。

 どこまで忠実に実行できるかは不明瞭だが、やるしかない。


 私たちは程無くして、射的屋さんへとやって来た。ここでのミッションは『彼女に景品をプレゼントする』だ。

 まずは彼女に挑戦してもらい、その後「私に任せて」と言って、彼女から銃を受け取る。最後に「好きなのを取ってあげるよ」と宣言したら、後はそれを打ち落としてプレゼントするだけだ。

 わたりには「簡単だろ?」と言われたが……、


 結果、私に出番はなかった。

 彼女は私に「貸してみ」と言って、不得手な私から銃を受け取ると、「好きなのを取ってあげるよ」と言い、一発で落として見せた。

 彼女はそれを私に手渡し、「これで遅刻分はチャラね」と言うと、もう一景品落として、「これで貸しね」と、小悪魔的に微笑んだ。


「……ありがとう」

「どう致しまして」


 彼女は再度微笑んだ。

 楽しそうな彼女を見ると、私も自然と口角が上がる。


 不思議な人だ。こうして一緒にいると、どうしようもなく心臓の辺りが暖かくなってしまう。

 この気持ちを、なんというのだろうか……。


 あっという間に時間が過ぎ去り、気づけば花火開始5分前に迫っていた。

 仕舞った! わたりとの計画では、30分前から場所取りをする予定だったのに。

 これでは人が多すぎて、告白なんて出来そうにない。


「あら、これじゃあ花火が見えそうにないね」

「……ごめん。つい夢中になっちゃって」


 原因は明白だ。金魚すくいにトライしすぎた。


「ちょっとこっち来て」


 突然、彼女は私の手を掴むと、人混みとは逆方向へと私を引っ張り走り出す。

 抵抗できず、連れられるままに足を進めると、ある丘の上へとやって来た。


「やっぱり。ここなら誰にも邪魔されずに、花火が見れると思ったんだ」


 息の上がった彼女はこちらを向くと、いたずらっ子な笑みを浮かべる。


 花火が始まった。

 丘下の喧騒を搔き消すほどの大迫力なその花火は、私の心に一生の思い出を刻み込むだろう。

 ……それが、彼女も同じだといいが。


 私は思った。

 もう、形振りなんて構っていられない。

 私は感じた。

 もう、この想いを留めておくことなんてできない。


 ……この衝動は、何だろうか。


 私は選択する。


好感度〈99〉

▲「明保野、私と付き合ってくれないか?」

▼「明保野、私と付き合ってください!」


「明保野、私と付き合ってください!」


 瞳に花火を映した彼女は、ゆっくりと私に顔を向けた。


「……どうして?」


 どうして。彼女は理由を問うている。

 どうしてだろう。私は思い浮かべた。


好感度〈99〉

▲「君のことが好きだから……」

▼「君に恋しているから……」


「君に恋しているから……」


 私は知っている、それこそが恋なのだと。


 すると、彼女は微笑んだ。


「そっか……。あなた、私に恋してるんだ」


 声が出せず、私は代わりに首を縦に振る。


「なら、仕方ないか。

 恋する心には、自分を裏切れないもんね」


 そう言って、彼女は満面の笑みを湛えた。


「いいよ、付き合ってあげる」

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