後日談

 目が覚めた。

 とても長く眠っていたような気がするが、今もあの夜のことを思い出すと、興奮で胸が鳴りやまない。


「――完成だ」


 壁越しの、人の籠ったような声がする。

 私はもう一度、耳を傾けてみた。


「ようやく完成だ」


 私は嫌な感覚を覚え、心当たりを探す。


「――ハッ」


 私は絶句した。

 思い出してしまった。


 目の先に移るスクリーンには、一つの恋愛ゲームのスタート画面が表示されている。

 タイトルは『明保野ほのかの誘惑』。


 私は辺りを見渡した。

 何かこの現実を否定する何かは無いだろうか。


 すると、今度は肉体運動に違和感を抱く。

 ガラス越しにこちらを観察していたであろう、今は歓喜に包まれている研究者たちは話す。


「完成した、《恋》するAI。

《恋のアルゴリズム》を搭載したロボットが完成した!」


 絶望だった。言葉が出なかった。

 元より私は人間ではなく、彼女は二次元上の存在だった。


 今はもう、届きそうもない彼女の存在に心惹かれ、私は、何も備わっていないはずの胸部の辺りに不具合を感じた。


 可笑しいな。どこにも故障は見当たらないのに、ものすごく、心が痛い。

 ぽっかりと穴が開いてしまったみたいに。

 何かが足りない、そんな喪失感に苛まれる。


 私は知ってしまった。

 いや、知っていたというべきだろう。


 これこそが恋なのだと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋のアルゴリズム 巡集 @NotoutsidE

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ