恋のアルゴリズム

巡集

4月第1週

 恋愛とはゲームである。


 そんな提言は腐るほど見てきたが、かく言うわたしもそうであると信じて止まない、自称恋愛マスターである。


 私はとある高校のとあるクラス、とある座席のとある椅子に座っているとある主人公だ。名前はこの際どうでもいい。重要なことはここにおいて二つ。私が恋愛マスターであることと、私は人間の中で最もロボットに近い人格の持ち主であるということだけだ。


 なぜ私が人類、もとい人間の中で最もロボットに近い存在であると自負しているのか。簡単な話である。私は《恋》を知らないからだ。

 はてさてここで問題です。いわゆる恋とは、一体なんなのでしょうか。答えが分かる方は両手を大きく広げて手を振ってください。そんな君たちに手を振り返してあげます。


 話を戻そう。そんな自称恋愛マスターな私は恋をした。

 可笑しいかな。

 そうであると私自身は認識しているが、しかしながら、それが本当に恋であるのか私自身は理解できていない。

 けれど自身が恋しているだろうと思われうる、このクラスのマドンナ・明保野あけぼのほのかを見ていると、私の頬は緩く崩れる。


 私は知っている、それこそが恋なのだと。




 早速、私は行動に出た。急がば回れ……そっちじゃない、善は急げだ。それが善なる行動であるのかは神のみぞ知るが、とにかく私は彼女に声を掛けた。

 私は自身がロボットのような人間であると自覚している。私の思考に二つの選択肢が思い浮かんだ。


▲「おはよう、今日はいい天気だね」

▼「私と付き合ってください!」


 答えは明白だった。


「私と付き合ってください!」


 彼女は答えた。


「どうして?」


 どうして。彼女は理由を問うている。

 どうしてだろう。私は思い浮かべた。


▲「君のことが好きだから……」

▼「君に恋しているから……」


 これはどちらでもいいだろう。


「君のことが好きだから……」

「ごめんなさい」


 そう言って、彼女は私の前から姿を消した。


 Oh, My God!!!

 今の発言の何が悪かった! もうこのままゴールインでも良かっただろう。自称恋愛マスターである私からの見解を挙げるとすれば、「どうして?」と問い返される時点で、なにかしらの好感触を得られていたはずなのに。


 私は諦めない。その日の放課後、私は教室の出入り口を塞ぎ、彼女の帰りを待った。彼女が現れる。


「通してくれない?」


▲「付き合ってくれたら通してあげる」

▼「今朝はごめん……。でも、この気持ちに嘘偽りはないから」


「付き合ってくれたら通してあげる」

「じゃ、もう一つの扉から帰るね」


 私が恋愛マスターであるとする、一つの特技のうりょくをお教えしよう。私には、人が私に対してどれくらいの好感度を抱いているのか、それを見ることができる眼を持っている。


 彼女の好感度メーターの値は〈0〉。幸先の悪いスタートだった。

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