7月第3週

 今日は夏休み前、最後の登校日。

 今日、彼女を夏祭りに誘えなければ、私はわたりに抱かれることになる。

 ……えっ、知らない約束だって。

 知らないことに出来るのなら、私もそうしたいさ。




 学校での大掃除中、私のもとにサンタクロースのような大きなゴミ袋を抱えた、季節外れのわたりが現れる。


「季節外れってなんだよ。お前には季節関係なくプレゼントしてやるってのに」


 わたりは私にゴミ袋を手渡した。それも二つ。私にはとても一人では持ち運べそうにない。


「なんで私にやらせるの?」

「これを口実に、明保野にゴミ捨てを手伝わせろ。

 そしたら嫌でも二人きりになるだろ。

 後は簡単だ。

 お前から夏祭りに明保野を誘え」


 おお……、心の友よ。

 私は改めて親友ともであるわたりのことを見直した。


「まあ、別に失敗してもクヨクヨすんな。

 その時は俺が明保野あいつを忘れさせてやるよ」


 私は背筋に寒気を覚えた。


「ああ……、ありがとう。尽力するよ」

「おう、頑張ってこい」


 親友の声援を受けて、私は彼女の元へと足を進める。




好感度〈85〉

▲「明保野! ゴミ捨て手伝ってくれない?」

◀「愛しのMy Honey。こちらにおいで」

▼ 無言で手を引く


「明保野! ゴミ捨て手伝ってくれない?」

「……うん、いいよ」


 思ったよりあっさりと二人きりになれてしまった。

 流石は女の敵・夢浮橋。その異名は伊達じゃない。


 さて、どうやって彼女を夏祭りに誘おうか。

 私は選択肢を思い浮かべる。


好感度〈85〉

▲ 夏祭りの話題から

◀ 夏休みの話題から

▼ 直接誘う


 ……急がば回れ。

 私はまず、夏休みの話題を出す。


好感度〈85〉

▲「そういえば、明日から夏休みだけれど、明保野はどこかに行く予定とかはあるのかい?」

◀「あ、明日から夏休みじゃないか。あんまり宿題は出してほしくないなあ」

▼「あーどうしよう。夏休み何して過ごそうかなあ……」


 質問系、愚痴系、独り言系。その三択か。

 独り言系の場合、高確率で無視されてしまう場合がある。また愚痴系だと、少し遠回り過ぎるだろう。


「そういえば、明日から夏休みだけれど、明保野はどこかに行く予定とかはあるのかい?」

「私? 私は……特にはないかな。

 お盆に実家に帰省するとか……。あとは部活とか」

「へえー……」


「あなたは、どこかに行く予定とかあるの?」


「私は……、


好感度〈85〉

▲「8月の末に、友人と夏祭りへ行くよ」

◀「明保野と一緒に、夏祭りへ行くよ」

▼「特に決まってない。……一応、友人からは夏祭りに誘われているんだけど、行こうか迷ってる」


 8月の末に、友人と夏祭りへ行くよ」


 ……とても悩ましかった。

 ひだりは流石に気持ち悪いだろうとわかったけれど、うえしたの選択は非常に難しかった。

 補足しておくと、うえのように『行く』前提で話を進めないと、そもそも夏祭りに『行かない』可能性が出てきてしまうと踏んだので、うえを選んだ。


「へえ、いいね。私も行こうかな」


 キタッ!


「なら……、


好感度〈85〉

▲「明保野も一緒に行かないかい?」

▼「明保野も、私と一緒に行かないかい?」


 明保野も、私と一緒に行かないかい?」


「……あなたと?」


 クッ……


「……いいよ」


 やっ……


「ふふふ……」


 すると突然、彼女は微笑んだ。

 私はその態度が気になり、自然と眉根がへの字になる。


「ううん、笑ってごめんね。

 でも、私の返事を待っている時のあなたの表情が面白かったから。


 私、自分に素直な人が好きなの……。

 あなたは、自分の心に素直な人?」


「……さあ、私には判らない」


 その感情表現は、私の理解の及ぶ範囲ではない。


「8月の末ね。楽しみにしているね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る