成就
保健室は誰もいなくて、聡ちゃんが手当てをしてくれた。
保健室の端にあるスツールに腰かけると、聡ちゃんは、かがみこんで足首にシップを貼ってくれた。
スカートから太ももが見えそう恥ずかしがっていたら、ジャンバー脱いで貸してくれたので、膝に掛けた。
ふわっと、さっきまで感じていた聡ちゃんの汗のにおいが広がって、おんぶされていた時のことを思い出して、また恥ずかしくなった。
そんな気持ちを紛らわせたくて、つい、包帯を巻いている聡ちゃんに聞いてしまった。
「聡ちゃん、彼女いるんだよね?」
「いないよ」
「でも、マネージャーさんが」
「マネジとは、何でもないよ。何か、中学の時、噂と言うか、公認みたいに言われて、でも同じ部活だし、下手なこと言うと気まずいから……何もなければそのうち忘れられるだろうって、ノーコメントでいただけ」
「でも、彼女、私には付き合ってる、って言ったんだよ」
「入学式でれーこちゃんに会えて、俺、彼女に言ったんだよ。ずっと好きだった子と再会できたから、もう誤解を招くようなことは言わないでほしいって。……考えたら、それが彼女を傷つけたんかもな。……れーこちゃんも」
「え、私は……」
ひとりで勝手に、落ち込んでただけで……聡ちゃんのせいじゃないし。
「でも、いつも困った顔してたじゃないか。おみやげ渡した時だって……」
「あれは……何て言うか、ちょっとした気持ちの行き違いというか……」
「何?」
「……だから、何で静岡行った人が、東京みやげを買うかなーって……」
「静岡のものがよかったの?」
「じゃなくて! ……例えどんなものでも、私の為に買って欲しかったの! ついでじゃなくて」
「……一応、れーこちゃんの為に買ったつもりだったんだけど。部活のはついでに。静岡のは、母さんに持たされただけで」
「……分かってるよ。今は」
おみやげは雷おこし! っていう私の言葉に従ったんだよね……。
「……あれは、大事な思い出だったから」
包帯を巻終えて、テープで止めてくれる。
「修学旅行で二人きりで食べて、二人で同じもの買って……それが、とっても美味しかったから……思い出して欲しかったんだ」
ジッと、私を見上げる聡ちゃんの顔。
久々に、聡ちゃんの顔を見下ろした気がする。
「何だか懐かしいな……昔はこうやって、聡ちゃん見下ろしていたのに」
「今は、逆だけどね」
スクッと立ち上がり、私のオデコを指でつつく。
「ねえ、れーこちゃん。もし、俺がれーこちゃんより背が低いままだったら、好きにならなかった?」
「……難しい質問だなあ」
でも。
「……私、彼女がいる人なんか、絶対好きになりたくなかった……」
「だから、それは」
「うん、誤解だった……でも、それが分かる前から、私、好きになっていた。彼女がいる聡ちゃんを……だから、背の低い聡ちゃんでも、好きになったかもね」
聡ちゃんが、聡ちゃんである限り、好きだから……。
「れーこちゃん、歩けそう?俺、送っていくよ」
「大丈夫。お母さんに迎えに来てもらうから……聡ちゃん、部活、大遅刻じゃない」
「うゎ、忘れてた!……っていうか、れーこちゃんは?」
「……私も忘れてた……」
二人で顔を見合わせて。
「「……このままバックレちゃおっか?」」
……そのあと、二人はどうしたかと言うのは、まあ、ナイショということで。
とりあえず、ハッピーエンドでした、みたいな?
てへ。
おしまい。
再会したイケメン幼馴染に彼女がいるんですけど恋してしまいました 清見こうじ @nikoutako
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