戦争の道具でも『人形』でもなく、ただ『人』として生きて欲しい

士官学校を優秀な成績で卒業した『リコリス』だったが、前線に配属されるでも出世コースを進むでもなく、軍部から与えられたのは『第五十九番倉庫の管理官』という不可解な役職だった。
人里離れた山奥にあるその倉庫には、大量の武器や弾薬が保管されているわけでもなく、年端もいかぬ『少女』達が何故か暮らしていて――。

主人公のリコリスが『人形』と呼ばれる少女達と交流しつつ、特殊な能力を持った彼女達をあくまで『人間』として尊重しようと奔走する、温かな物語でした。
それぞれの登場人物がしっかりとキャラ立ちしており、コンビを組むパートナーを互いに想いやるが故に悩みや擦れ違いが発生したりなど、少女達の心情や弱い部分も丁寧に表現されていました。
訓練シーンにおける戦闘描写も堅実かつ巧みであり、派手さはないものの高い文章力を感じられて良かったです。しかもその戦闘描写の上手さは、物語後半からの『戦い』においても存分に発揮されています。
最初は「可愛い女の子達が閉鎖空間でキャッキャするだけの日常系かな」と予想していましたが、『戦争モノ』であることを忘れておらず、その急展開や緊迫するストーリーに釘付けになりました。

ただ、物語が大きく動き出すまでが人によっては冗長に感じるかもしれません。それでいて『尺の短さ』や『展開の配分』が気になってしまいました。
リコリスが少女達と交流し、絆や信頼を深めていくまでの描写が足りない気がします。リコリス自身も軍人であるはずなのに価値観や軍部への反発、少女達への対応が『普通のお姉さん』といった感じで、文章が丁寧であるが故に、逆にその辺の違和感が目立ってしまった印象でした。
それぞれの少女達の出番や掘り下げをするシーンも、もっと多くても良かったと思います。ナナとムツミの二人と同じくらい、他の少女達にもフォーカスを当てて欲しかったです。
ラストにおける『戦いの決着』やエピローグにおいても、かなりアッサリし過ぎているように感じました。全体的に展開を急いでいる感じがして、10万ではなく15万や20万文字くらいのサイズ感の方が良かった気がします。

しかし全体的なプロットの、『お話の流れ』としては問題ありません。ですので前半の交流シーンやキャラクター達の見せ場、最後の戦いを切り抜けるまで、そして新たな人生を選ぶまでの道順を、もう少し肉付けした方が、更に魅力的で丁寧な作品になると思いました。

とはいえ高い地力を感じるのは間違いないです。作者さんの今後の作品にも期待が持てます。