箱庭の余人

文木-fumiki-

プロローグ


大人になって、思うことがある。


成功体験なんてない、運任せの流されるような日々。

普通に友達がいて、ちょっといじめられたりもして、それなりに反抗して、付き合ったり別れたりして。

ついでに就職なんかもしてみて、失敗して。


そのどれもが人生の輝やかしい日々だったかもしれないし、どれもが無駄だと思うような日々かもしれない。


けど明日はやってくる。


どれほど拒もうと、どれほど迎えたいと願おうと、同じように時は進む。


それなら受け入れずとも、何かひとつはやった方が気持ちよく一日を終えられる。


開けなかったカーテンが今日開けた。

宿題をひとつ終わらせた。

起きて朝飯を食べた。

風呂に入った。

身だしなみを整えた。

ちょっとオシャレをしてみた。

友達に連絡してみた。

親に電話してみた。

外へ出た。

仕事でミスをしなかった。

プロジェクトで成功を収めた。

試験で全力を出せた。

目の前の妊婦さんに席を譲ってあげた。

自分の意見を人に言えた。


何でもいい。

人として最も低いレベルでも、自分のできる最高の結果をその日に残せたら満足だ。


そんな日々を送れたら、

きっと自分にとって損な人生じゃあなかったはずだから。



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