第8話 「あの日」からの「日常」
「続いて、次のニュースです。今年も『あの日』が近づいてきました」
「それで、真由美。さっきは聞きそびれてしまったが、最近の調子はどうだい?」
「うん、まあ、ボチボチだよ……、そっちの方は?」
「世界各国で大規模な式典が予定されています」
「ふっふっふ、リトルなオブスキュートをメイドという感じだね」
「あ、うん、小説の方はそんな感じか……」
「政府によりますと『顔の見えない人たち』から、今年も多くの人々を返却する予定があると」
「……うん、他もおおむねいつも通りだよ。家事をしたり、パートに行ったり、アドバルーンを出し入れしたり」
「そっか。そういえば、ここはアドバルーンを飛ばさないといけないんだっけか」
「『あの日』から、今年で四年」
「そうそう。右か左にもう一軒ずれていれば、毎朝毎晩屋根の上に登らなくても良かったんだけどなぁ」
「大変そうだね」
「未だ世界各国で多くの人々が、『光の内側』で過ごしています」
「そうだね。でも、アドバルーン手当は毎月いただいてるし、作業にも慣れたから大丈夫だよ」
「ああ、そういえばそんな制度あったね」
「彼らといち早く再会するためにも」
「うん、結構助かっているよ。それに、手当抜きでもちゃんと飛ばさないと、不安になるご近所さんもいるだろうからね」
「あー、うん……そういう人も、いるだろうね……」
「残された私たちは、『顔の見えない人たち』の要求に従い」
「……ところで、真由美!」
「わっ! いきなり、大声出さないでよ!」
「日々、健やかな日常を過ごしていきましょう」
「すまない、すまない」
「まったく、もう。それで、一体なんなの?」
「なお、配給されたアドバルーンに不調がある場合は」
「ああ、玄関の花をそろそろ変えようと思うんだが、何が良いと思う?」
「……え? それって、私なんかが決めちゃっていいの?」
「下記の電話番号、メールアドレス、SNSアカウントへご連絡ください」
「ああ、もちろんだとも! なんたって、君はこの『華麗なる萬★ジョン次郎先生』の唯一無二の親友だからな!」
「なんか、嘘くさいな……」
「続いては天気予報です」
「ふふふ、そんなことないよ。私は、こうして真由美と一緒にいられて、本当に良かったと思っているんだから」
「……もう、大げさなんだから。それで、本当に私が決めていいのね?」
「明日は西高東低の冬型の気圧配置となり」
「ああ。君の選択にケチがつくようなら、この『華麗なる萬★ジョン次郎先生』が全力で武力行使だ!」
「あはは。そっか、それなら……ヘリアンフォラとか」
「関東地方は広く晴れるでしょう」
「申し訳ございませんが、食虫植物はご容赦ください」
「あー! ケチをつけたら全力で武力行使とか言ったくせに、ひどい!」
「各地で最高気温が十度を下回る見込みですので」
「す、すまない真由美……、しかし、以前モウセンゴケを栽培していたら、アリだらけになってしまって……」
「まさかの、経験済みだったか……」
「お出かけの際はコートやマフラーをお忘れなく」
「ああ。たしかに、ヘリアンフォラにも非常に興味はあるんだが、また虫が大量発生したらと思うと……」
「虫嫌いにとっては、恐怖でしかないか」
「また、明日は『顔の見えない人たち』の希望により」
「そうなんだよ。ただ、興味はあるから……虫が発生する度に真由美に助けを求めても良いなら、検討しよう」
「あー、まあ、私が提案したことだし、そのくらいなら良いよ。私、虫そんなに苦手じゃないし」
「空が金色となります」
「本当か!?」
「うん。ただ、連絡受けてから到着するまでに、大体一時間くらいかかるけど平気?」
「外に出る際は、必ずサングラスをご着用ください」
「ああ! そのくらいの時間なら、問題ない! なんたって、真由美は来ると言ったら、絶対に来てくれるからな!」
「……そっか。そう言ってくれるなら、連絡を受けたら二十四時間三百六十五日対応いたしましょうか」
「それでは、皆様、本日も健やかに日常をお過ごしください」
「それはなんともありがたい! さすが! 真由美大明神様だ!」
「大明神はやめてよ……」
「本日も健やかに日常をお過ごしください」
「ちなみに、駆けつけてくれるときは、満腹になるくらいのカステラを持ってきていただきたい!」
「カステラかぁ、たしかに最近食べてないからちょっと食べたいかも……ん?」
「本日も健やかに日常をお過ごしください」
「ちょっと待って! なんで助けに駆けつける方が、菓子折りを持ってこなきゃいけないのよ!?」
「ふむ、勢いでごまかせるかと思ったが、駄目だったか」
「本日も健やかに日常をお過ごしください」
「本日も健やかに日常をお過ごしください」
「本日も健やかに日常をお過ごしください」
「本日も健やかに日常をお過ごしください」
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