第15話 おまけ②


日曜大工(男の伯父から最近聞いた言葉)を任されたものの、そうそうそんな作業はあるものではなく、ライオネルは実際少年の家にいたときと同じような1日を繰り返していた。


ぱたん、ばたん。

庭から聞こえてくる生活音。


「……俺の服の洗濯くらい、俺がやるぞ」

「そう、ですか。では、やり方を教えますね。」


ひび割れた窓越しに目が合う。

自分を拾った少年がなにもないように笑うので、本来言おうとはしていなかったことを言ってしまった。


一片の汚れもない布を渡す掌は人らしい温もりがあって、悪い気はしなかった。




数ヵ月後。


「ライオネルさん、こちらも頼めます?」

「……なんで俺が他のやつのものまで」


渋い顔を見ると、さっと背に隠し持つ籠を差し出す。


「御褒美にフィナンシェが」

「……仕方無いな」


甘いものは美味しい、とわかってしまったんだ。




「……ところで、」

「はい?」

「…あんたはその服をいくつ持っているんだ」


タートルネックという、首まで編まれたピッタリした服。

愛用するにもほどがあるだろうに、毎日着ているのだから驚きだ。


「その服? ああ、黒から白までで今のところは24色を1枚ずつですね…」

「……」


おもむろに少年が、指をおって数えだす。

両手が足りなくなった時点で何となく察していたがどれだけ好きなのだろう。


「あ、いえ、白は気に入っているので、5枚あります」

「………」

「……悪いですか?」

「…いや、別に。」


ぷく、と頬を膨らませるのが見ていて楽しくて、やってしまっただけだ。

それを感じ取ってか彼が花開くように笑う。




「そういえば、次の休日はどこに連れて行ってくれるんですか? 朝焼けの海浜、昼寝用の植物園、夕陽の丘……実はロマンチストなんですか、ライオネルさんは」

「暖かくていいだろう?」

「そうですね。なんだかいつも、眠くなってしまって」


ぽやぽやと、普段なら見せない気の抜けた表情。

そういえばバイト続きで寝不足なんだったかと、毎夜空く隣の布団を思い出した。


細い腕を引っ張って、縁側にストンと座ると、その隣を叩く。


「1時間で起こしてやる」


縁側の床は堅いが、肩を貸してやればいいだろう。


「…そう、ですか? では、」


お言葉に甘えましょうか、と言う途中で、小さく寝息が聞こえた。よっぽど疲れていたのか。


(……それもそうか)


生活に慣れるまでは、と社会的な仕事を任されていないライオネルを養っているのは他ならぬこの少年である。

本人は重荷だと思っていない(元々学費や食費、或いは電気水道代をも稼いでいたのだから)

が、身体の不調は出るもの。


過干渉は互いにしないでいるけれども、たまの休みにはこうして休息をとらせていた。


「おやすみ」

「……はい。」


首筋に埋まった頭を軽く撫でる。

やさしい空気が、流れていった。



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現代で暮らす僕の元に、悪役令嬢モノで疲れた(元)騎士さんがやってくる話。 gas @kagokomiya3

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