2020年6月20日(土)

今日は目覚ましが鳴る前に目が覚めた。どうだ見たか楓。

ちょっと得意な気分で、いそいそと机の上の交換日記を開く。

開いて、全身が凍りついた。



たった四行だった。

お別れ?

なんで突然?

というか、なんでまた学校で寝るんだよわたし。

疑問符が頭の中を埋め尽くしている。呆然自失の状態で、しばらく机の前に立ち尽くしていた。

部屋を出るとふらふらと階段を降りる。

リビングに行くと、わたしが降りてきたのに気付いたのか、台所にいたお母さんがパタパタとスリッパで走ってきた。

「まゆ…あなた、今日は具合は大丈夫?最近また様子がおかしいから心配で…」

昨日のことだろうか。楓の日記を読んだショックもあって不安になって聞いた。

「様子が変って…そんな変だった?」

「…まゆ、落ち着いて聞いてね」

お母さんがわたしをソファーに座るよう促す。

わたしはソファーに座るとぼんやりとお母さんを見た。

「あのね、まゆは自覚がないのかもしれないけど」

前置きをして、お母さんは話を進めた。

「あなたが、部屋で大声で泣いているのが時々聞こえるのよ。もちろん、理由は大体分かるわ。だから、まだ辛いことが多いんじゃないかって思って」

え?わたしが…泣き喚いている?

いや、わたしじゃない。

「楓が…?」

思わず声に出てしまった。

お母さんの表情が強張った。

「坂下さんじゃなくて、あなたの事よ」

「違う…楓が、楓が泣いていたんだ」

「坂下さんは事故の後、その…残念だけど…葬儀も、火葬も終わっているのよ」

火葬。

その単語にショックを受けた。

楓の体は火葬して埋葬された。

楓は、その現実を知ったんだ。

わたしはその現実を全く理解していなかった。

楓との奇妙な生活に浮かれていた。

どうしよう。楓に謝らなきゃ。

わたしはお母さんとの会話を打ち切ってふらふらと部屋に戻った。

机に向かい、交換日記を開く。



『楓、あなたの境遇を分かっていなくてごめん。

あなたに助けられて、今のわたしがいるのに。

ねえ楓、私とずっと一緒に暮らそう。

私の人生、半分こしよう。』



わたしはひたすら楓へのメッセージを書き綴った。

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