交換日記

あぱぱらぱーや

2020年6月13日(土)

『今日から日記を書くことにした。

日記を始めた理由は、私の中学校からの親友、坂下楓さかしたかえでが四日前に亡くなったから。

それともう一つ、私の記憶がおかしなことになってきているからだ。

月曜日の下校途中、私達は交通事故に遭った。

あの時は楓と並んで歩けることが嬉しくて、ろくに周囲を見てなかった。楓の細くてきれいな手をつなぎたくて、前を向いて楓を意識しながらそろそろと手を伸ばしたとき、後ろからきた車に二人とも跳ね飛ばされた。

私は楓に突き飛ばされて何とか無事だったけど、楓は』



わたしはここまで書くと、ため息をついて日記帳の上にペンを置いた。

「楓…」

先週までは楓のことを考えるだけで胸が踊って、世界が明るく照らし出された気がした。

けど、楓はもういない。

世界の色は失われ、わたしの目には灰色の風景しか映らない。

もう何もする気力が無かったが、楓の笑顔を思い出し、再度ペンを握って書き始める。



『怪我は大分良くなったが、学校に行こうという気が全く起きない。どうにも身体が動かず、退院したあとずっと自室に引きこもっている。

一昨日は楓の死亡のことを聞かされて、自室のベッドで泣き疲れて、いつの間にか寝てしまい、目が覚めたら日曜の朝だった。

服が着替えてあり、飢餓のような空腹感はない。しかし全く記憶が無いのだ。何かまずいような気がする。



楓、会いたいよ。』



わたしは日記帳を開いたまま机に突っ伏して目を閉じた。まぶたの裏に楓の姿が現れてわたしに苦笑してみせる。そのうち涙がにじみ出てきて、しょっぱい細波のイメージがわたしの妄想を洗い流した。

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