息もできなくなるくらい笑って、ハラハラして、そして涙した。

とにかくインパクトの強いタイトル。
だが、作者はこれまでに数々の名作を産み出している。
今回はいったいどんな話なのかと、恐いもの見たさで拝読した。

まず驚いたのが、世界観のユニークさである。
なんと「セックスが免許制になった世界」なのだという。しかも、わざわざセックスの前に「同意書」なるものを書くのだという。

これだけも衝撃的なのだが、面白いのは、その設定から一歩踏み込み「セックス保険」という存在を作り出しているところにある。

性交がなされれば、そこにトラブルはつきもの。
合意の上ではなかったり、あるいは性病を拾ったり、望まぬ妊娠をしてしまったり。
そういったトラブルに対処するのが「セックス保険」であり、コールセンターで働いている主人公の仕事だ。

電話口で、彼女は言う。
「それでは、事故が起きた日時や状況などを詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」

えっ、それ聞いちゃうの!? と、最初はびっくりした。
「事故」とは、つまりセックスにおけるトラブルのこと。
しかも「詳しく」とは。いったいナニを聞くの!?

ところが、主人公は大まじめだ。
そして展開はあくまでも「事務的に」進む。

そう、この話はタイトルこそ衝撃的ではあるが、決して「いやらしい」話ではなく「かなり真面目な」内容であり「仕事を題材とした小説」なのだ。

コールセンターにかかってくる電話のパターンはかなりさまざまだ。
ときには童貞から「自分には必要と思えないので保険を解約したい」という投げやりな電話がきたり、あるいは「女性がそんな仕事をするなんてはしたない!」といったクレームの電話がくることも。
そのエピソードのひとつひとつに「実際ありそう」と頷いてしまう。

最初は「とんでも設定」だと思いながら読み始めたはずなのに、気がつけばいつのまにか「あれ? これ本当に存在しててもおかしくない世界観なのでは? っていうか『セックス保険』って実際にあったほうがよくない?」とまで思うようになっていた。

このあたりの「リアルさ」の作り方があまりにも巧妙で、作者の筆力の高さに驚かされる。

同作者の長編といえば、「まおすみ」こと『魔王の棲家~天才魔術師と老いた英雄達の物語~』を思い浮かべる。こちらは一言で表すなら「ファンタジー世界の老人施設」を舞台にした作品で、人間の老いと死を丁寧に描いている。

(魔王の棲家~天才魔術師と老いた英雄達の物語~ - カクヨム
 https://kakuyomu.jp/works/1177354054888663292)

こちら↑も文句なしの名作ではあるのだが、『こちら月光生命セックス保険コールセンターです。』の方はさらにクオリティの高い作品だと感じた。

主人公の対応するトラブルのパターンがさまざまで、まるで保険業界の裏側を覗いているかのような気分になる。あるいは風俗やAV業界の世界までも描かれており、その造り込みの深さに脱帽するばかりである。

そしてこの作品、なによりも「小説としてとても面白い」のである。
「第3話 ポルノグラフィティ」では、息もできなくなるくらい笑ってしまった。
かと思えば、ハラハラさせられる話や、涙なくしては読めない話もあり、読んでいるあいだの感情変化がとても激しかった。

もちろん、題材が題材だけに、なかなか衝撃的な言葉が飛び出すこともある。
もはや「セックス」という言葉などゲシュタルト崩壊だ。
それでも、内容的には高校生にも安心して薦められる。

短いエピソードの集まりなので、とても読みやすい。
そのひとつひとつにドラマがある。作品としての出来の良さに唸らされる。
そして、読んだあとは元気になれる。

ぜひあなたも、この世界を覗いてみませんか?

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