8、
「はあ!?」
「王は異国の姫君と秘密の恋をした。そして私を妊娠した姫君は──そうと知らずに異国へと帰りました」
けして許されない恋だから。
姫君にもまた、国に婚約者が──愛のない、政略の為の相手が居たから。
「姫君は国に戻ってから私を身ごもっている事を知り。そしてひっそりと生み……この国に、国王に託したのです。けれど当然公に出来るものでもありませんから。王は最も信頼できる者に──公爵夫妻に私を預けました」
そうして私は公爵家令嬢となった。
この国の王家と。
異国の王家と。
二つの王家の血が混ざる私。
そんな私の存在は、すぐに王妃の知る事となる。
「王妃様は子供に恵まれませんでした。王と王妃、お二人とも身体に問題は無かったそうなんですが……やはり愛の無いそれでは駄目だったのかもしれません。原因は定かではありませんが」
「う、嘘だ……」
呆然と呟くように否定するタルジャンを無視して、私は言葉を続けた。
「そして王妃様は連れて来たのです。王に似た金髪碧眼の子供を。誰も知らない、貧民街の隅でひっそり捨てられ、ただ死を待つしかなかった貴方を。王の子だと偽って」
赤子だった貴方は覚えてないでしょう。
私も赤子だったから母の事など何も覚えてはいない。
──私を生んですぐ病に臥せった母は、国王である父に私を託して。そして身罷ったそうだ。
そんな私の容姿は、母にそっくりだと父は……本当の父である国王に、誰とも知られぬように会った時にそう言われた。
「はあ!?お前、私が知らぬ所で父上と会っていたのか!?」
「私の、父です」
強調するように、ゆっくりと告げる。
「十歳の時に初めて、父に……公爵に連れられ隠し通路から王城に入り──秘密の部屋で王に、真の父に会いました。たくさんお話ししましたよ。初めてお会いしたあの日からこれまでずっと」
そう、たくさん話した。
父のこと、母のこと、私のこと。
それは紛れもなく父娘の会話だった。
「タルジャン、貴方を王の子だと偽った王妃は苦しみました。それはそうでしょう、いくら何でもそんな戯言、誰が信じますか。けれど王はそんな王妃の狂気を受け入れ、貴方を息子として受け入れました」
「そんな……」
もう驚く気力もないのか。
力なくタルジャンは呆然として、その場にうずくまる。
「そして王妃は知ったのです。自分の望んだ形では無いけれど……それでも確かな王の愛を」
求めた愛ではない。
けれど王と王妃とタルジャンと。
偽りの家族は、けれど確かに家族の愛があった。
だから。
「だから、王妃は私を受け入れる事にしたんです」
「は?」
「私をタルジャンの妻とすることを」
そうすることで、王家は紛れもなく純血が保たれる。
確かに王家の血を受け継ぐ私を王妃にすることで。王家の血はこれからも受け継がれる。
「タルジャン、私は貴方に相応しいから婚約者に選ばれたのではありません」
「……」
「私こそが王族に相応しいから。いえ、私が王族だから。貴方が私を選ぶんじゃない。王族の私が結婚相手を選ぶんです」
その意味、分かりますね?
そう問いかければ、力なく項垂れていたタルジャンがバッと顔を上げた。短時間の間に随分とゲッソリした顔で私を見る。
「嘘だ……」
けれど彼の口から出た言葉は、否定の言葉だった。
「嘘だ嘘だ嘘だ!なんて嘘を言うのだお前は!私は紛れもなく父上の子供だ!そもそもそんな証拠、何処にあると言うのだ!?」
「証拠ならありますよ」
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