6、

 

 

 プツンと何かが切れる音がした。


「は……?なんだって?」


 それは私が発した言葉。

 低い低い……およそこれまでの公爵令嬢である私が発した事のない、低くドスのきいた……。


「え」

「お、お姉さま?」


 王太子とマリアンヌが驚いた声を出す。


「は……」


 俯く私の顔は向こうからはよく見えないのだろう。


 恐る恐る、下から顔を覗き込もうとしてきたマリアンヌは。


「は……はは……」

「!?」


 恐怖に歪む顔で固まった。

 それほどまでの顔を、私はしているのだろう。


 ニイッと。

 音をつけるならそんな感じの。

 口を思い切り横に伸ばした、黒い笑みを宿した私は、もうこらえきれなかった。


「ぷ……あは、あはは!」


 押さえられない笑いがどんどん込み上げてくる。


「は、あはは、あははははははははは!!!!──なにその間抜けな顔!!!!」


 私はこらえきれなくなって笑いだした。止まらない、止められない笑いに涙まで浮かべて。


「あは、あっはっは!あー可笑しい!笑えるわ、何それ!」

「ど、ドリアンヌ……?いかれたか?」


 気がふれたと勘違いしたのだろう。青ざめた顔で、笑い続ける私に恐る恐る声をかける王太子。


 それがまた私のツボをつく。


「ぶっふ……なんだそれ、その間抜け面!ばっかみたい!」

「な!!」


 青から赤へ。顔色がコロコロ変わる。怒りで赤くした王太子が何かを言おうとしたその時だった。


 グイとその襟首を掴み、引き寄せる!


「んな!」

「なんだって?純血の王族?お前が?」


 真っ直ぐにその目を覗き込めば、またも蒼白な顔の王太子。それほどに私の顔は壮絶を極めてるのだろうか。

 そばで見ているマリアンヌも蒼白になってるので、きっとそうなんだろう。


 ああそうか、美人が怒る顔は恐怖でしかないものね。て自分で言うのも何だけど。


「ドリアンヌ……貴様……」

「いい事を教えてあげましょうか?」


 王太子の抗議の声を遮る。今は私のターン。お前に話す権利は無いと思え。


 襟首を掴んだまま、その顔を覗き込む。


「王家は血筋を重んじる。ええ、それは理解出来てましてよ。理解できてるからこそ……私は婚約を受け入れたんです」

「え?」


 何を言ってるのか理解できないですか、んーそうですか。


 お馬鹿にはちゃんと言ってあげないと分からないですね、そうですね。


 では教えてあげましょう。


「タルジャン、貴方は……」


 呼び捨てにする。抗議の言葉を口にしようとしたタルジャンの唇を指でソッと押さえ。


 私はニッコリ微笑んで。そして言ったのだ。


「貴方は王族ではありません」


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