4、

 

「たしかに私は公爵家の実の娘ではありません」

「んやっぱりなあ!!!!」


 その最初の『ん』にどういう意味があるのか聞いてみたいけど。今は置いておく。


 私は姿勢を正し、王子の目を真っ直ぐに見据えた。


「ですが、私の出自は両親──公爵夫妻は元より、国王様もご存知です。そのうえで、私と貴方の婚約は為されたのです」

「そんなこと知るか!私はお前なんぞ妃としては認めん、認めんぞ!」

「は?」


 何を言い出すのか。

 数える事もしない、もう何回目かも分からない『は?』の言葉と共に、眉根を寄せて王太子を見た。


「ええい、いい加減その『は?』も聞き飽きた!耳障りだ!いいかドリアンヌ!私は今この場をもってお前との婚約を破棄する!!」

「はああああ!?」


 はあ、はああ、と言い続けていい加減疲れました。もう何回言わせる気!?


 そう思ってるところに、とんでもない発言出たこれ!


 ポカンとしてる私の目の前にズイと歩み出たのは。

 ピンク頭の我が──義理の妹。


「そういうことですわ、お姉さま!」

「マリアンヌ?」

「お姉さまは今日をもって王太子の婚約者ではなくなりました!それどころか公爵令嬢でもなくなります!」

「は?」

「お姉さまには我が家を出て行ってもらいます!」

「はあ!?」


 いやもう、貴女まで何を言い出すのか!妹のとんでも発言にビックリしていたら、その妹の腰を抱きながら王太子が言う。


「当然であろう!お前は不敬にも私を騙して婚約者の地位に着いた!これほどの大罪があろうか、いや無い!!」

「はあ……」

「ならば私との婚約は破棄に決まっている!」

「決まってるんですか」

「そうだ!これは決定事項だ!」


 それは一体誰が決めた事なんですか。


「そして大罪を犯したお姉さまは……いえ、もう姉じゃないわ。ドリアンヌ!貴女は公爵家に相応しくないのよ!とっとと出てけえぇ!!!!」


 言い方ぁ!!もっとマシな言い方無いの!?貴女、一応公爵令嬢でしょ!?


「マリアンヌ、それはお父様とお母様の意向でもあるのかしら?」

「ふん、お父様たちにそんな事を聞く必要無いわ!聞かなくても分かるもの、ずっとお前を邪魔者扱いしてたんだから!」

「は?」


 それはどういう意味だろう?

 育ての親である公爵夫妻は、とてもよくしてくれてたと思う。実の娘のマリアンヌと同じように愛情を注いでくれてると感じてたのだけど。


「お父様たちがそう言ったの?」

「言ってないけど私には分かる!実の娘の私にはよおっく分かるのよ!何よりの証拠に、あんたと王太子の婚約!」

「それが何か?」


 首を傾げて疑問を口にすると、鼻で笑われた。なんか腹立つわね、その笑い。


「実の娘である可愛い私を王家という遠い世界にやるのが嫌で、両親は私でなくあんたに押し付けたのよ!まさか私とタルジャン様が愛し合うとも思わないで!」

「は!?」


 愛し合ってる!?

 両親の事よりもビックリな発言に、私は目を見開いた。


「愛し合ってる?貴女と王太子が?」


 呆然として聞くと、腰と口にに手を当てて高らかに笑うピンクがそこに。


「おーほっほっほ!そうよそうよ!私とタルジャン様はね、とっても愛し合ってるのよ!それはもうラブラブ、ラブラブなのよぅ!」

「はあ……」

「心もそうだけど肉体も相性抜群で、しかと結ばれた私達は最強なのよ!」

「ま、マリアンヌ!そこまで言わなくても……」


 流石に王太子も、マリアンヌのぶっちゃけっぷりに慌てている。が、もう遅い。マリアンヌの爆弾は投下されてしまった。


「えええ……」


 さすがの私もドン引きだ。

 そして周囲もドンびいている。マリアンヌ、周囲に大勢の目がある事分かってる?


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