2、

 

 

 王太子と向かいあっていた私は、思いっきり押しやられた。


 こう……グイっと。邪魔者のように。……いや、実際邪魔者と思われてるのだろう。


 私は、私に指をつきつけてきた妹を呆然と見やった。


 え、今わたし「うるさい」って言われた?妹に、うるさいって言われたの?


「マリアンヌ、あなた……」


 ちょっと指近いよ。寄り目になるのでのけてくれない?

 何をするのだとマリアンヌの指をそっと横に押せば。


「うるさいと言ってるんです!」


 と、また指が戻ってきて、もう鼻に付きそうなくらいの近さで指さされてる。


 えええ、私一応姉なんですけど?

 姉だからって偉そうにするつもりはないけれど、その態度はないんじゃない?


 わけが分からず呆然としていたら、フンと鼻で笑われた。なんで?


「まったくお姉さまは下品なんですから」

「は?」

「タルジャン様に『は?』だなんて、公爵令嬢にあるまじき言動ですわよ?」


 では姉に『うるさい』と言って指をつきつけたり押しやったりする貴女の行動は、公爵令嬢らしい言動なのだろうか。


「ああ、タルジャン様!お姉さまが大変失礼致しました!姉に代わり私がお詫び申し上げますわ」


 言い返す間を与えてはくれないようで、マリアンヌはオーバーなまでに両手を大きく広げ、そして王太子に深々と頭を下げるのだった。


「なんと健気なことか!ああいいとも、ドリアンヌのふざけた行為はマリアンヌ、お前に免じて許してやろう!」


 いやそんな許す、許さないレベルでもないと思うのですが。意味不明なこと言われて思わず『は?』とか言っちゃったのは、そりゃ失礼だったかもしれませんけどね?だからってここまで大げさにすることかしら?


 何だか意味不明なお芝居を見させられてる気分になって、欠伸が出そうになってきた。そろそろ授業始まると思うんだけど、この場を去っていいのかしら?


 チラリと視線を外せば、それを目ざとく見つける王太子。


「なんだその態度は!貴様というやつは……まがりなりにも妹が謝罪しているのだぞ!お前も謝らないか!」

「はあ……でもタルジャン様が何を言ってるのか理解できませんので。思わず『は?』と言ってしまった事は謝りますが……そもそも、タルジャン様は何を怒っておいでなのですか?」


 そうだ。まずはそれなんだ。

 いきなり『どういうことだ!』とか言われても、それこそどういうことなんだと聞きたい。


「何を怒ってるのかだと!?お前の態度も気に食わんが……何より!王家を!私を騙していた事に、だ!」

「は?」


 あ、また『は?』って言っちゃった。でも仕方ないと思うんですけど。


「騙していた?何をですか?」


 まったく心当たりがないんですけど。


 そう言えば、王太子の目はますます吊り上がっていった。うわ、醜いわあ……とは言わない。綺麗な顔がああも歪むとむしろ醜くなることを発見した私は、けれど何も言わない方が得策だと、今は敢えて耐える。


「とぼけるか、なんと心根の醜い女だ!その美しき見た目に騙されるところだったわ!」

「あら、ありがとうございま……す?」


 え、今の褒められてるのかな?お礼を言うので合ってるかしら?


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