お馬鹿な王太子に「は?」と言ったら婚約破棄されました

リオール

1、

 

 

「ドリアンヌ、どういうことだ!」

「は?」


 貴族が通う学園で。

 次の授業は写生という事で外に向かって歩いていましたら。


 突然大声で呼び止められてしまいました。


 いえね、私も公爵令嬢の端くれですから?ちゃんと礼儀はわきまえておりますのよ?


 でもねえ。いきなり呼び捨てにするわ学内で大声出すわ、そんな事されたら思わず「は?」とも言いたくなります。無視しなかっただけ有難いと思っていただかないと。


 私は声の主を振り返って、思い切り顔をしかめた。


「いきなり何ですの、タルジャン様」


 タルジャン──金髪碧眼の見目麗しいその方は、一応この国の王太子である。


 そして私の婚約者だ。


 知った仲とは言え、大声で呼び捨てにされるいわれはありません。そんなに仲良かったですか、私達?


「神聖なる学び舎の廊下で大声を出すなんて、はしたないですわよ」

「お前が言うな!はしたないのはお前だろうが!!」

「は?」


 また「は?」が出ちゃったけど仕方ないと思うの。ホント何言ってるのかしら、この王子。


「は?とは何だ!王太子である私に向かって無礼であろうが!」

「はあ……ですが、一体何のことやらサッパリ分かりませんので……」

「とぼけるのか!やはり生まれが卑しい者はやる事が汚い!」

「はあ!?」


 いやもうホントに……「は?」の上級である「はあ!?」にもなりますよ。


 生まれが卑しい……って、私は公爵令嬢なんですけど。何がどうしてそんな台詞が出て来るんでしょうか。


「はあ!?ではない!」

「はあ……」


 堂々巡りってこういうことを言うんでしょうか。話が一向に進まないまま、何事かと野次馬という生徒が集まってきたではありませんか。


 私と王太子から一定の距離を置いて野次馬する生徒の中から。


 一人の少女が前に出てきたのはその時だった。


「んしょ、んしょ!ちょっと退いてよね、私はあの人達に用があるんだから!」


 あの人達って……一応王太子ですよ?そして私は……


「タルジャン様!──とお姉様」


 私はついでですか。姉なんですけど。


 そう、ハイカラピンクの髪をなびかせてやってくるは、我が妹マリアンヌ。礼儀がなってないけど、れっきとした公爵令嬢である。


 でもって学園の一年生。私と王太子は三年生。姉だし先輩なんだけどね。


「ちょっとお姉様のいてください」


 押しやられました、グイッと押しやられましたよ!


「マリアンヌ、貴女何を──」


 するんですか。


 その言葉は呑み込まれる。というか言わせてもらえなかった。


 ビシッと妹に指を突きつけられたので。


「お姉様うるさい!黙っててもらえません!?」

「はあ!?」

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