9、

 

 

「は!?証拠だって!?そんなものどこに……!!」


 そもそも王城に戻って国王に聞けば確実なんだろうけど。


 この場ですぐに証明した方が彼も納得出来るというものだろう。


「これを」


 そうして私はスッと腕を出した。

 制服の袖をめくる。


 そこには。


「それは──!!」


 星のような不可思議な文様。それが私の二の腕にクッキリと痣のように浮き出ていた。


 それは、紛れもない……


「王家の証……」


 そう、それこそが私が王族である証。

 不思議な事に、この国の王族にはこの文様が体のどこかに浮かび上がると言われている。現国王には手の甲に。


「貴方にこの証はありますか?」

「わ、たしは……脇腹にあったらしいのだが……子供の頃に傷を負って分からなくなったと」

「誰が言ったんですか?」

「母上が……」


 それ以上、言葉は出なかったのだろう。

 完全にガックリと項垂れてしまった彼に、私は冷えた声で言った。


「貴方にはガッカリですタルジャン。すっかりマリアンヌに骨抜きにされてしまった貴方は、王に相応しくありません。どうぞマリアンヌとお幸せに」

「そ、そんな!」

「あら、それいいじゃない」


 青ざめたタルジャンとは逆に。能天気な声がしたのはその時。


 ようやく発言しても良いと思ったのか、マリアンヌが喜々とした声をあげた。


「ドリアンヌが王族だったってのは……まあ驚いたけど?王妃になるより住み慣れた公爵家に居る方が気楽ってもんだしね。タルジャン、うちに来なさいよ。出自は……まあ問わないであげるわ。その代わり、しっかり働いて私を楽させてよ?」

「な!!」


 驚愕と怒りをその目にたたえて、タルジャンが顔を上げる。睨みつける相手、マリアンヌはけれどそんなもの気にしてないようだった。


「あら、それとも国外追放の方がマシ?」


 元妹ながら……なんという変わり身の早さか。


 呆れつつも、そんなマリアンヌに私は近付いて。


「何よ?」


 傲慢な態度を崩さない彼女を。

 思い切り殴った。


「──ぐぎゃ!?」


 床に思いきり倒れ込む彼女を、私はコロコロと笑って見下ろす。


「ふふふ、いいざまね、マリアンヌ」

「な、何すんのよ!?」

「マリアンヌ。気が変わったわ、貴女は国外追放よ」

「はあ!?」


 分かってないのだろうか、自分のしたことを。


「貴女は私の事を……仮にもずっと姉妹として一緒に居た私の事を、随分となめてるようだけど」

「な……」


 スイっと顔を近づけて。

 耳元に囁く。


「貴女はもう終わりよ」

「!?」


 パッと体を離す。


「妹として可愛がってきたけれど。貴女は公爵家にとっては毒でしかないわ。大丈夫、貴女が居なくても、公爵家には幼くも可愛い弟マルセンが居るもの」


 正直、貴女の我儘ぶりに公爵夫妻も頭を痛めてたのよね。どうしてあんな子に……って嘆いてたの、知ってた?


「じょ、冗談じゃないわ、冗談じゃないわよ!どうして私が!私こそが貴き令嬢なのに!王妃になるべきなのに!なんであんたが──!!」


 そう言って立ち上がろうとした彼女の腹を踏みつける。立たせないように。上から見下ろして、私は告げた。


「王族に向かって随分な口のきき方だこと。国外追放では生温いかしら?しばらく牢屋に入ってみる?」

「は!?」

「ふふ、それもいいわね。そうしましょ、そうしましょう」

「な、何を……」


 それ以上は言わせない。


 パチンと指を鳴らせば、突如どこからともなく現れた黒服の男たち。


 影ながら、王族である私を見守っていた者たちだ。


「連れて行きなさい」


 それが私の彼女への最後の言葉。全てを悟って暴れるマリアンヌだが、もう遅い。全てが遅い。


「な!!は、放しなさい、放しなさいよ!お姉さま、お姉さま!ごめんなさい私が悪かったわ、だから許してお姉さま、お姉さまあ!!!!」


 涙を流し鼻水を垂らし。

 必死に懇願するマリアンヌに。元妹に。


 私は満面の笑みを向けて言うのだった。





「は?」








 ~fin.~



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お馬鹿な王太子に「は?」と言ったら婚約破棄されました リオール @rio-ru

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