7、

 

 

「はあ!?」


 今度はタルジャンが言った。私が今日何度も叫んだそれを、タルジャンが叫ぶ。


「な、何を……お前は何を言ってるのだ!?」

「そうですわ、お姉さま!言うに事欠いて王太子を王族じゃないなんて!!」

「お前は黙ってろ」


 横から口出ししてきたマリアンヌをギロリと一瞥すると黙った。そうよ黙ってなさい、お前に発言権は無い。

 私の変貌に口をパクパクさせてるけど知った事か。他に生徒も居るけれど、私は二人にしか聞こえない小さく低い声でマリアンヌを黙らせて。


 今度は皆に聞こえる大きな声で言う。


「タルジャン、貴方は王族では無いのです。私が公爵家の養女であるように、貴方は……王家の養子なのですよ?」

「な!」


 何を言ってる!

 そう言葉を続けようとしたのだろう。けれど私が再びその口に指を当てたが為に、言葉は封じられる。それほど有無を言わせぬ表情を私はしているのだ。


「随分とご自身の血筋に自信がおありのようですが……残念でした、貴方は王族じゃないんです。本当の王族は……」


 そこでたっぷり間を取って。

 ニッコリ微笑んで言ってあげる。


「わ・た・し♪」


 楽しくて。

 心底楽しくて。


 馬鹿な男に突き付ける現実が楽しすぎて。


 私は笑みを絶やす事が出来ない。


 タルジャンの双眸は驚愕に見張られ。

 そして。


「ふざけるな!」


 叫びと共に、私の手を振り払うのだった。


 彼はギリッと唇を噛み締め、私を睨む。


「あら恐い」


 全然そう思ってない声音で私は嘘ぶく。


「私が王族じゃないだと!?お前が王族だと!?ふざけるのも大概にしろ!!」

「信じられませんか?」

「当たり前だろう!」


 まあそうだろう。それは当然だろう。


「私を見ろ!この金髪碧眼を!これこそが王族の証!父上そっくりの容姿をしている私が王族ではないだと!?ではなんだ、父上も王族では無いとお前は言うのか!?」

「いいえ、国王様はれっきとした王族です。長きに渡る王族の末裔──この国の優秀な建国者の血を引いた、立派な王様であらせられますわ」

「では!」

「でも貴方は違う」


 国王の話をするときはウットリと尊敬の眼差しで話す私だけど。

 最後の言葉は低く冷たいものとなる。

 それにおののくのは、自称王族のタルジャン。


「何を言ってるんだ……」

「可哀そうに。何も教えて貰えなかったんですね」


 そこで一変して、私は同情の眼差しで彼を見た。


 ツイとその頬を撫でれば、またも振り払われる。その様をクスリと笑って告げて上げた。


 真実を。


「私はね、国王様ととある国の姫君との間に出来た子供なのです。王が即位した時にお祝いにかけつけた各国の代表の中に、その姫君は居た。そして王は真の愛を知ったのです」

「は!?」

「当然、それは許されない関係です。王には既に王妃が居ましたからね。けれど愛の無いそれは冷え切っていて。まだ王になったばかりで大変だった王を支えてくれる人では無かったのです、王妃は……」

「そんな、そんな……母上は……」

「ああ、言っておきますけど」


 これも大事なことだから。

 勿体ぶる私に、今度は何だとタルジャンが睨む。


「あなた、王妃の息子でもありませんから」


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