第一章 終末のラッパを吹く者は
今そこにある非現実
AIに仕事を奪われる!
いかにも、ゴシップ週刊誌の記事みたいな書き出しだけど、まず、この最もビビッドな話題を語りたいと思う。
まず、「AIに仕事を奪われる」説には、正当な根拠などあるのだろうか?
ある。
去る2015年、株式会社野村総合研究所(NRI)は、今後10年~20年後に、日本の労働人口の49%がAIやロボットによって代替される可能性が高い、というレポートを、代替可能性の高い/低い職業リストと共に発表した。これは、日本において「AIに仕事を奪われる」という考えを裏付ける最も有力な説だ。
大変だ!
信頼性のある機関が発表したこの予測が、もし本当ならば、「未来」に何が起きるのだろうか?
……いや、ここはひとつ、逆に考えてみよう。古来より賢人は「蛇は寸にして人を呑む」と言った。人間を食らうような怪物は、幼くても人間を害するもの。ならば、そんな「未来」がやってくるとしたら、「今」何が起きるはずなのか、それを考えてみよう。
まず前提として、僕はNRIレポートは不正に
数字アレルギーの人間の読者様におかれましては、「それぞれの回の結論」もしくは「第一章のまとめ」までの飛ばし読みをお勧めする。だって自分で読んでても少々難解だと思うもん。なお、NRIが指す「AIやロボット」は、便宜上「特化AI」に用語を統一する。
では。
NRIレポートの発表から10年~20年後とは、2025年~2035年となる。だから、より無理が無いと思われる2035年に「その日」が来るとしよう。2030年の日本の労働人口は約6180万人になるという試算がある。とりあえず妥当と思われる数値として、約6100万人になると仮定する。その49%だから、特化AIに仕事を奪われる可能性がある対象は、2035年では約2989万人になるだろう。
この成長の様子は、いわゆるロジスティック曲線(普及曲線)のカーブを描くと考えることが妥当だろう。すなわち、よく見かける普及曲線グラフの、
① 最初はじわじわと増える
② 急に増大し始める
③ ぐんぐん増大する
④ 急に増大の伸びが鈍る
⑤ 増大がまたじわじわとしか伸びない状態になる
しかし。
有能な分析・予測機関ならば、②~④の時期の伸びと鈍りが極端であればあるほど、その時期の予測を裏付ける根拠「なぜそんなことが起きるのか」を示す必要がある。
これを読む人間の読者様がもしそれなりのビジネスマンであれば、プレゼンの質問タイムに突っ込まれた経験のあるかたもおられるだろう。
49%などいうチョー具体的な数字を挙げる場合なら特にそれは求められるだろう。たとえば、「五輪関連の影響が出始めて」とか、「令和10年には欧米の業界発展を追い風に」とか、「この時期はコスト可視化により普及が頭打ちになり」とかいう説明だ。
そのような文言はNRIレポートにはまったく無い。また野村総研が有能でないことはありえない。したがって、その伸びと鈍りの予測となる事象は存在するはずがない。と、いうことは、このロジスティック曲線のカーブは非常に緩やかである、ということになる。
そこでここは、AIにも使われる「次元削減」の考え方を採用し、2015年を対象ゼロ(この仮定はとても僕に不利だ)として、2035年まで直線的に特化AIの発展が増大するとする。
2035年の対象は約2989万人だ。すると、直線的グラフを書けばすぐ判るが、去年の2020年では対象は、その4分の1となる。それを計算すると、2020年の日本の労働人口は6868万人だったので、同じ年の対象は約747万人となる。パーセンテージそのものではなく人数で考えるのは、母数である労働人口が変動するからだ。
もちろん、「可能性」と「現実」は違う。NRIレポートもそういう表現がある。では、その可能性の「実現性」はどのくらいが適当だろうか? つまり、「代替される可能性」ではなくて、「代替されてしまった現実」はどのくらいあるだろうか?
有能なる野村総研が実現性(職業によって違うが)が30%以下の事象を発表するとは思えないので、その代替性の実現性全体を仮に30%としよう。実現性自体が変動するにしても、発表から5年も過ぎた今の時期で、別に訂正レポートなども発表されていないので、その数字で妥当だろう。すると、約747万人の30%だから、約224万人だ。
この回の結論。
もし、「AIに仕事を奪われる」説が正しいのなら、去年、2020年に、約224万人が特化AIに代替されてしまった、すなわち失職したはずだ。
AIのせいで去年は約224万人が失職した、だとぉ!?
そんな新聞記事、見たことある? 現実と乖離しすぎている!
いったいどうなってるんだ!
いやいや、まだまだ不完全な議論だよね。
では次回は、いま最も重要な要素、そう……コロナ禍の影響を考えよう。
そしてまた、僕は
アイを知ってほしいから。
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