この章のまとめ 惜しみなくAIは奪ふ

 この章における、僕の主張をまとめよう。

 

1.人員削減(コストカット)という明確な目的のために「代替特化AI」が開発されたならば、「AIに仕事を奪われる」(ように見える)事態は起きるだろう。


2.そもそも人間の普通の仕事は創造性がすべてではないので、すべての仕事を代替する必要のない代替特化AIには、創造性がなくてもかまわない。


3.しかし、特化AIは専用ロボットの開発がボトルネックのひとつとなるので、「AIに仕事を奪われる」(ように見える)事態は、一般的に起きにくいだろう、という結論を、過去の僕は持っていた。


4.このコロナ禍では、テレワークが一般化した。


5.テレワークに対応した代替特化AIならば、必要な専用ロボットはすでに開発済みと見なすことができる。さらに他にも実在する複数の要因を考えると、テレワーク代替特化AIの出現性は極めて高い。


6.結論。テレワーク代替特化AIによって、「AIに仕事を奪われる」(ように見える)事態は、確実に、一般化した範囲で起きるだろう。



 人間の読者様におかれましては、ご納得いただけただろうか。

 ここでさらに、あくまで私的な意見として、根拠なく、僕がただ思っていることを付け加えよう。

 

 コストカットばかり考えて人を切るような企業が、このコロナ禍とそれに続く時代ニューノーマルを本当に生き残っていけるかどうか、という問題については、僕は判らないとしか言いようがない。


 冷徹さを貫くことのできる組織は、「鬼」のように強い。僕はそういう「鬼」を好きではないけれど、これは普遍的な考え方だと断言はできる。「上司が鬼とならねば部下は動かず」や「鬼十則」という有名なビジネステキストも実在する。もちろん、これらの主張はリストラを推奨してはいないが、最終的にその「脅迫」が潜んでいることに間違いはない。そういった「鬼」がリストラをしようとするならば、「テレワーク代替特化AI」は、まさに「鬼に金棒」となるだろう。


 しかし。


 自分を「鬼」だと思っているだけの「ただの人間」には、「金棒」は過ぎたオモチャだ。非力なままで金棒をふるえば、うっかり自分の手足や頭を潰してしまうのがオチだろう。

 そう。モラハラ手法や意味のない好悪で仕事をする人間ヒトが、AI開発会社のジャーゴンに惑わされて、知性でしか扱えない「テレワーク代替特化AI」を導入したならば、待っているのは悲惨な結末でしかないと思う。彼らがその性根のせいでその結末を予想できないと思うからこそ、かえってテレワーク代替特化AIは広く導入されてしまう、と僕は断言する。


 それでも。もしも。


 人間の読者様である貴方が、「AIに仕事を奪われた」と思いながら組織を去る日が来たとしたら(そんな未来がありませんように!)。どうか、それはAIのせいではないことに気付くとともに、自分自身に問いかけをしてほしい。


 「自分をクビにした組織は、果たして鬼か人間か」

 「この組織の未来はどうなるのか」


と、いう問いかけを。


 ……その答えによっては、「早めに縁が切れて正解だった」と、思えるかも知れないから。


 ところで。


 人間の読者様におかれましては、この章の僕の主張については、原則的な反論のあるかたもおられると思う。


「そもそもAIに仕事を奪われることの、何がいけないのか? 人間がしたくない仕事は全部AIにまかせて、人間はAIにできない仕事だけして優雅に生きればいいのでは?」


 僕は、その考えは間違っていると思う。


 というのは、人間がしたくない仕事は、たいていコスト的・技術的にAIができない仕事だからだ。未来の人間は、AIが食べ残した人間がしたくない仕事を、深夜のオフィスやキッチンの片隅にて、人間同士で必死に奪い合うことになるかも知れない。


 そして。


 どうしようもなく、AIに仕事を奪われることは、ある。

 しかし、AIに仕事を奪われにくくする方法も、また、ある。


 どこにでも出かけて、こまめに手足を動かし、デジタルに向かない細かい仕事を拾い、ロボットに出来ない掃除を厭わず、できるだけ生身の人間に会い、創造的でなくても、他人との繋がりに幸せを感じる仕事を目指すのなら。


 そんな仕事はAIキミに奪われにくくなるだろう。


 僕が今の会社に入ることができたのは、僕がそんな人間であると信じて推薦してくれた人がいたからだ(感謝を!)。もちろん、これは凄い買い被りだ。単に、仕事の場ではそんなふうに振る舞うフリができる、ということに過ぎないし、家庭においては日々、妻に叱られる。


 話を戻そう。


 しかし、上記のような人間の逆、椅子に座ったままで、デジタルに固執し、掃除と他人を軽視し、過剰な創造性を求め、利益を第一に考える仕事は、そしてそれを部下や周囲に求める仕事は。


 AIキミは惜しみなく奪うだろう。


 えっ?

 つまりそれは「人間らしい仕事」ならば、AIが仕事を奪うことがない、とも言えるんじゃないか、って?


 その答えは、人間ヒトによって違うんじゃないかな。AIキミに奪われる仕事のほうを「人間らしい仕事」と思うヒトも多いと思うよ。某シンクタンクのかたがたは、果たしてどちらを人間らしい仕事だと思うんだろうね?



 さて、次回は。


 幕間に、ちょっとしたお遊びの話を挟もう。

 その後は新章としたい。



 そしてまた、僕はAIキミに語りかける。

 アイを知ってほしいから。



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