番外編:ある小娘の追憶
【番外編:猫魔女隊秘密会議】の後日、第一章のクロイツェルとの思い出を回想する、ユッティ視点のお話です。
********************
あたしの家は、
父は学者で、あたしの遺伝形質はこちらの比率が高いと思う。
母方の一族は由緒正しい大貴族で、
その最たる
分派の婦女子の一人一人にまで、
「ひいじいちゃんも、ひいばあちゃんも、あたしが生まれる前に死んでるじゃない。
隣にいた、申し訳なさそうな顔をした執事に。さすがは淑女の
そんなだったから、とても外にはお出しできないと踏まれたのだろう。花嫁修業に放り込まれたのは、遠縁の武門の家だった。
14歳の小娘にはどうしようもなかったし、それなりに努力して飛び級した帝国高等学校に、続けて通わせてくれただけでも
相手は背も高く堂々として、物腰も
学問とは
銀髪と青い目が
「少しすれば、お
「まだまだ死にそうにないけどね」
そう、本だ。
武門の人間なんて肉体派ばかりと思っていたが、考えてみれば曲がりなりにも貴族だし、教養があって当然だ。
あたしが積み上げた学術書を、気がつけば近くで読んでいる、そういう休日が多かった。
機械油で真っ黒になったり、離れで爆発騒ぎを起こしたりした時などは、子供みたいに大笑いしていた。
夕食も、よく一緒だった。学生の身では知り得ない、かつ、適度に知的好奇心を刺激する話題を振られていたから、会話に苦労することもなかった。
勉強していると、夜も遅い時間なのに、お菓子を持って来てくれたりもした。
太るからと辞退すると、これは絶対に太らない秘伝の
これは困った。
武門の人間だから修行は得意だろうが、これは
見た限り人間としての
「あのさ。毎日子供の夕食につき合ってたら、
「彼女達が、なにか言いましたか?」
「言う言わないの問題じゃないわ。あんただってそう。どうせ、ばあちゃんからは早く女にして
少し驚いた目を向けられた。
子供と小娘は、同義ではないのだ。もちろん都合よく使い分けるが、男に向き合う覚悟もないと
「誰かがあたしのために我慢するのは、嫌なの。どんな状況になったって、あたしは好き勝手させてもらうんだから、あんたにも好き勝手してもらわなきゃ困るわ。ばあちゃんが死ぬまでの
「……なるほど。我慢と言うのは違和感がありますが、どっちつかずであったのは認めます。あなたは聡明で、主張も筋が通っている。まあ多少、あけすけ過ぎる気もしますが」
手を握られた。けっこう固い。ごつい。
普段から、剣だの銃だの振り回しているんだろうし、そりゃそうか。
こういうところは、少し印象と違うな。おもしろいな。
「女性としてのあなたに敬意を払います。それ以外のことは全部、後からゆっくり、つけ足しましょう」
これで良い。対価を提供してこその契約で、取引だ。まずは、望ましい結果だった。
一方で、
最近ようやく、それらしい丸みを帯びてきたとは言え、あたしは運動が大の苦手で、柔軟性も壊滅的だ。
あくまで個人差と聞いているが、傾向的に不安要素ばかりが多い。
日を変え、体勢を変え、何度も再挑戦を申し込んだ。
仕事場では新しい修行で通していたらしいが、こっちにしても、
ようやく最後までできた時には、思わず、互いの健闘をたたえ合ってしまった。
人間の興味深いところで、一度障害を越えると、すぐに
具合が良くなれば、前向きにもなる。淑女の
新しい遊びを覚えた。
その程度だと思っていた。
ある日の朝、隣で眠っている顔を見て、可愛いな、と思ってしまった。そのことに、いきなり心臓をつかまれたような衝撃を感じた。
違う。
目的と手段を見失っている。
どこで間違えた?
いつから?
記憶をさかのぼる。
自分が小娘だということを忘れていた。
背も高く堂々として、物腰も
自分の
好き勝手させてもらう、とは言ったし、このまま自分の人生に利用しても
自分がそう感じる以上、どう言い訳しても通らない。
かと言って、感情を受け入れて生き方を変えれば、もっと根本的な、自分のなにかを裏切ることになる。
もう少し年齢を重ねていれば、流されるのもまた人生だと、鼻で笑うことができただろう。
だが、
今すぐ、正しい答えに立ち戻るしかなかった。
うん、
「ごめん……ごめんなさい、アルフレット……ごめんなさい……」
あたしは彼を、アルフレットと呼んでいた。
ちゃんと発音するのが気恥ずかしかったからだけど、彼は語尾がおそろいだと喜んでいた。
そういう所も、子供みたいだったな。あたしだけのアルフレット。
泣いて
「そんな気がしていましたよ……。あなたは今まで、ずっとがんばってきて……これからも、がんばっていきたいんですね。ここで、少しだけ休んでいった。それで良いと思います」
こんちくしょう。
なんでも見透かしやがって。
くやしいから、その日はもう一言も話さなかった。ずっと離れなかった。
家に
次に会った時は
ついでに、けっこうすぐ奥さんと結婚したのにも、理不尽を承知で腹を立てたけど、こっちが次に
いろいろあったな。
人生、なにがどうなるか、ホントわからない。
それにしても、あたしが
魔女か。魔性の女か。
困ったな。次は、長生きしそうな男に
********************
ちょっと切ない、しくじり婚約者ユーディットさんのお話です。
第一章の時点で元婚約者という設定はあったのですが、内容的に蛇足のため割愛しました。
本編はここで前半戦が終了、後半戦の『もっと猫の手も借りる!! 世界大戦2』に続きます。
そちらもまた、おつき合い頂けたら嬉しいです!
猫の手も借りる! 世界大戦 〜黒髪の剣術娘、立身する! 猫とロボと仲間を連れて、世界中の戦争に飛び込みます〜 司之々 @shi-nono
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます