番外編:猫魔女隊秘密会議

【63.言い忘れていたことがある】の後日、リベルギント視点のお話です。


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 大型輸送飛行艇おおがたゆそうひこうていの格納庫は暑かった。


 外は快晴なのだから当然だ。そして閉鎖空間へいさくうかんであり、暗かった。


 マリネシアの紺碧こんぺきの海をのぞみながら、何をこのんでこんな状態にあるのか、ジゼル、ユッティ、マリリが息をひそめていた。


 リントとメルルはとっくに退散しているが、リベルギントとメルデキントの本体が向かい合って固定されており、視覚情報の共有と会話に問題はない。


 三人はメルデキントの操縦槽と、床においた画像および音声の出力装置に信号伝送線をつないで、車座くるまざになっていた。


 暑いのは覚悟の上か、三人とも水着だ。画像出力装置の光に、真剣な顔が浮かび上がる。


「確認しますが……過去の情報は記録されており、出力可能ということで良いのですね」


「正確に言えば、すべての生物も同様、個体の経験は生体情報の一部として保存されている。神霊核しんれいかくの場合、端末たんまつ経由けいゆした外部情報もすべて集合知しゅうごうちに記録、整理している」


「つまり」


「出力可能だ」


「ではお願いします。あの時はエトヴァルト殿下の手前、報告を打ち切りましたが……やはり軍人として、状況の推移すいいは正確に把握はあくしておかなければ、今後の作戦行動に支障となる可能性があります」


 メルデキントが、三人の指定通りの記録情報を、出力装置に伝送する。ため息のようなものを感知したのは、おそらく背景誤差だろう。


 遮光布しゃこうぬのを閉めた薄暗い部屋に、海月くらげまたたく水槽と、一組の男女が浮かび上がっている。


 衣擦きぬずれの音と、熱を帯びた息遣いきづかいが聞こえてきた。


「……」


「……」


「……」


「メルル、もう少し右に移動なさい」


「記録情報だ。指示しても意味はない」


「そっか。そりゃ、そうよね……お! いいね、わかってるじゃない!」


「ちょ、ちょっと、メルルっ! 近すぎ……っ!」


「予想はしていましたが、筋肉が細いですね。男性としては、いかがなものかと思いますが」


「見る分には生臭なまぐさくなくて、ちょうど良いわよ。ほら、けっこう軽々と……」


「そ、そんな……格好で……っ?」


「……」


「……」


「……」


執拗しつようですね」


「やっぱり、身体が小さいからねえ。丁寧ていねいにとろけさせてあげないと」


「ひっ? な、なんですかっ? あんな……っ?」


「おお。なかなか立派じゃない」


「世の男性の平均的にはどうなのでしょう」


近現代きんげんだいの白色人種を母集団ぼしゅうだんとすれば、成人男性の平均値をやや下回る」


「え、ホント? どうなってんのよ、白色人種」


「あ。そっちへ行くと見つかりますよ」


「メ、メルルっ、駄目っ!」


「ぎりぎりを攻めるわね……」


「対象の周辺警戒は無に等しい。メルルも充分、承知している」


「……」


「……」


「……」


「驚きました……なるように、なるものですね……」


「いや、これ、相当よ? 女をたぶらかすしか能がないって……確かに、能だわ」


「こ、声……声が……もう……っ」


けものじみてきましたね。自分もこうなるかも知れないと思えば、恐ろしいような、興味がわくような……」


「あんた、よっぽど努力しないとね」


「文脈が理解できないが」


「む、む、む、無理です……私、無理……こんなの……」


「なに言ってんのよ。一番、具体的に予定ある子が」


「はひっ?」


「まあ、結婚する以上はけて通れませんね」


「そ、そそ、そんな……っ」


「……」


「……」


「……」


「……大変良いものを、拝見はいけんしました」


「いやあ、メルルの視点で見上げると迫力が違うわね」


「私……も、もう、どうしたら良いのか……」


 映像が終わる頃には、だいぶ温度も湿度も上がっていた。


 マリリはのぼせたのか、顔の上半分が青く、下半分が赤くなっている。ジゼルもユッティも、平静をよそおいながら、心拍数は並々ならない状態だ。


「私とマリリは、まだ想像するしかありませんが……こういうことも、それなりに奥が深いものなのですね」


「おや、本格的に勉強する気になったのかな? いいよ、先生いろいろ教えてあげるわよ!」


「先生の御経験にも興味はあるのですが、相手がお父さまかと思うと、なかなか難しい気持ちになります」


「どんな無神経に思われてんのよ! あたしだって話す相手と内容くらい、ちゃんと……」


 言いかけて、ユッティの目が泳いだ。


 心なしか発汗量はっかんりょうも上がったようだ。


「ごめん……今の、なし。あんまり、言うほどのことは……ないかな、なんて」


 ジゼルが不審そうにまゆをひそめて、少し考える。


 そして口に手を当てた。


「……先生……まさか、おじ……」


「わーっ! わーっ! 聞こえない! なーんにも聞こえないっ! あんな奴のことなんか、なーんにも記憶にないわっ!」


 叫ぶユッティに、今度はジゼルが言葉をくす。


 裸体に近いのはお互い様のはずだが、ジゼルがユッティの、汗にまみれた肌を上から下までじろじろと見た。


「なんだか、もう……私の知っている男性は全員、先生と関係を持っているような気がしてきました」


「とんでもない言いがかりよっ!」


 ユッティまでが、のぼせたように顔中を紅潮こうちょうさせて、急にへなへなとへたばった。


 ジゼルもいい加減、目つきが怪しくなっている。マリリは、気がつけば床にのびていた。


 リントをかいして人を呼ぼうかとも考えたが、誰を呼べば後から文句を言われないのか、判断基準に不確定要素が多すぎた。


 結論が出ない内に、にゃ、と声がして、メルルがナドルシャーンを連れて現れた。


 よりにもよって、という気がしないでもなかったが、もう如何いかんともしがたかった。


「……どういう状況なんだ、これは?」


 あきれはてたナドルシャーンの声に、だが、ジゼルも答える余裕がなかったようだ。


 おそらく最後の力だろう、出力装置の伝送線をひっこ抜いて、そのまま、ぱたりと倒れ伏した。



********************


 またしても、ひどい話です。どんどん、ひどくなってますね……。

 それでも、まあ、キャラクター達が楽しそうにしているのは嬉しいものです。

 青い猫型ロボットのように、あたたか~い目で見守ります。

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