辛い時にこそ読んでほしい。

辛い時にこそ読んでほしい。
そんな時はどうしても視野が狭くなっている。
視点を俯瞰に変えるには、自分が動くことだ。動く元気もなければ、動いた人の話を読むのも一つの手だ。

アメリカ。雄大な大地の赤い砂。

仕事に疲れ、うつ病となり、実家に身を寄せて療養している主人公。脳裏をよぎるのは死ぬことばかり。
治療が進み寛解期になって、一か月の海外旅行に出かける。行く先はアメリカ。

先住民が暮らした谷。そこで触れた赤い砂。
細かな砂だ。砂のなかに手を突っ込むと、ひんやりとしている。しかし気持ちは温かい。

視野狭窄になっていた思考が、一気に宇宙の彼方まで広げられる瞬間。
そんな経験。貴方にはあるだろうか。

ちっぽけで、ほんの百年も生きているか分からない生き物。宇宙から見れば砂よりも小さい。
それでも人は、この宇宙の一部なのだ。

淡々と語られる物語のなか、赤い砂との邂逅の場面は、印象的に、詩的に、情緒をもって語られる。
このクライマックスを超えて、主人公はまた前に歩き出す。

辛い時こそ、読んでほしい。
貴方は宇宙の一部なのだから。

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