潰えた想いが道を示した。人の身に魔炎を宿す少年の、異世界転生冒険譚。

 魔王の器となるため異世界に召喚された少年が、制御の難しい力に苦しみながらも成長し、王道を目指す異世界転生系ファンタジーです。
 地の文は基本的に主人公マサトの一人称ですが、彼の性格を反映した「ですます調」で語られるという珍しいもの。

 エリート家庭で厳しい期待に応えながら中学生活を送ってきたマサトは、高校受験に失敗し、両親から見放されてしまいます。気落ちしながらもはじめて得た自由を謳歌すると決め、滑り止めで受かった高校の新生活を楽しみにしていた彼は、しかし入学式の前日に異世界へ引きずり込まれてしまったのでした。
 召喚者の目的は、魔王の魂と相性がいい身体を得ること。ここにも、マサトという人格の居場所はありません。
 しかし三年後、意識を乗っ取り身体を自由に使っていた魔王が死んだことで、彼に転機が訪れます。

 果たせなかった、高校入学。街で出会った奴隷エルフの少女。思いがけない人国の者たちとの出会いと、彼らが口にした想いや未来の可能性。
 魔族に恐怖で支配され自分の道をあきらめていたマサトは、幾つかの出会いと別れを切っ掛けに、「士官学校」への憧れを強く抱くようになります。
 彼の内側には魔王の力があり、誰にも知られるわけにはいかない。それでも、今度こそは青春を謳歌したい――。

 苦悩の多い始まりと悲しみの多い旅の果てに、彼は個性的な友人たちを得ることになりますが、物語が動き出すのもそこからです。
 ちょっと変化球、されど異世界転生の王道も押さえた、バトルファンタジー。ぜひご一読ください。

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