虚ろを口にする者。人であり、人で無いもの。

嘘吐き。それがこの作品のテーマであり、物語の根幹でもある。
京谷要(きょうや かなめ)という男性が主人公となり繰り広げられる、嘘に塗れた捻くれた世界。
しかし、ご存知だろうか。
捻れもまた、極まればそれは「直線となる」
またはシュレディンガーの猫と同じように、誰かに観測されるまで、何が真実なのかは誰にも分からない。

このような言葉遊びの戯言に満ちた、まるでどうしようもなく素晴らしい物語である。

この作品に出てくる文字は全て意味を成している。削れる単語は一つも存在しない。
故に、酷く読みやすく、そして明確に読みにくい。
言葉の流れを辿るだけで簡単に終幕に辿り着けるが、そこは嘘吐きの物語。
何が真実で何が偽りなのか、それを決めるのは果たして作者か、或いは読者なのか。
それすら疑わなくてはならない、非常に意地の悪い物語でもある。

しかし、我々は忘れてはならない。
この物語は嘘吐きの物語であると。
根幹から狂っている「可能性がある」物語だと。

貴方は上手く騙されるだろうか。
悩み、考えた末に得られるカタルシスは何者にも変えられない至福となるだろう。
その時は、是非とも私と感想を分かち合い、共に「騙された!」と笑いあって欲しい。

私はこの物語を通し、良い経験が出来たことを嬉しく思う。

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