第5話

先のラトロワ征伐から1年が立ち、スリザリー王国は軍備を整え、第二次ラトロワ征伐の計画を進めた。ゴードン・ラトロワは大将軍へ復帰し、再びスリザリー軍の総大将を努めることになった。王国内では再び討伐に反対の声が多数上がったのである


【貴族A】

「陛下、此度のラトロワ征伐、何卒お取り止めのほどを!」


【貴族B】

「いたずらに国力を消耗させるはいかがなものかと!」


【クレイム・ブルック】

「貴様ら、陛下の御決断に異を唱えるのか!」


【貴族C】

「丞相、ミカロス城は難攻不落の大要塞に変貌しました。討伐軍を上げても成果がなければ意味がありません!」


【クレイム・ブルック】

「では貴様らは座して滅亡を待つと言うのか!」


【貴族A】

「もはや我が国は降伏するしか道がありません!」


【影武者】

「降伏はならぬ。」


【貴族B】

「陛下!もはや我が国は孤立無援の状態です!どうか討伐はお考え直しを!」


【クレイム・ブルック】

「この恩知らずどもが!貴様らはラトロワ王国の回し者か!」


【貴族C】

「黙れ、クレイム!貴様はゴードンと組んで政の実権を握りたいのであろう!貴様とゴードンがこの国を滅亡へと追い込んでいるんだ!」


【クレイム・ブルック】

「黙れ!この売国奴どもが!」


【影武者】

「もうよい、誰かこの者等を斬れ!」


衛兵が現れ、貴族A~Cは捕られられた


【貴族A】

「陛下!私を斬った所で何も変わりません!」


【影武者】

「連れていけ!」


【クレイム・ブルック】

「売国奴の家族郎党も一緒に処刑せよ!」


貴族A~Cは連れていかれ、刑場にて斬首の刑に処されたのである。その首は城下に晒されたのである。更に貴族A~Cの首を前に家族郎党も共に処刑されたのである。国民たちは鬼畜の所業と陰口を叩き、処刑された貴族と家族郎党の遺体を持ち去り、密かに埋葬したのである。その後、ゴードン率いる総勢12万のスリザリー軍は閲兵式を盛大に行い、第二次ラトロワ討伐へと向かったのである。軍を見送ったヨハネ・スリザリーは影武者とクレイム・ブルックを呼んだ


【ヨハネ・スリザリー】

「あれで良かったのか?」


【クレイム・ブルック】

「勿論にございます。」


【影武者】

「亡き先王の遺言は果たさねばなりませぬ。」


【ヨハネ・スリザリー】

「遺言は正したかったのか?」


【クレイム・ブルック】

「何を仰せになりますか?先王のなさることに間違いなどありません。」


【ヨハネ・スリザリー】

「多数の犠牲を出しといて、何が正しいのだ!」


【影武者】

「殿下。」


【ヨハネ・スリザリー】

「クレイム、お前も分かっているはずだ。勝ち目がないことも。ラトロワ王国から和睦を持ちかけることは極めて薄いことも。」


ヨハネは子供ながら、この先、スリザリー王国はラトロワ王国の支配下に入ることは分かっていた。されど父の遺言を守らなければならない、ヨハネはいたずらに国力の消耗、ひいては国民の暮らしが成り立たなくなることも分かっているが、父の遺言と国との間で板挟みにあっていた


【クレイム・ブルック】

「殿下、弱気になってはいけません、将兵たちは歯を食い芝って、奮闘しているのです。」


【ヨハネ・スリザリー】

「私は降伏してもいいと思っている。」


ヨハネの口から降伏の言葉が出てきた瞬間、影武者とクレイムは耳を疑った


【クレイム・ブルック】

「殿下、降伏は断じてなりません!今、降伏すれば殿下のお命にも関わるのですぞ!」


【影武者】

「左様、亡き先王は草葉の陰で泣いておりまする!」


【ヨハネ・スリザリー】

「構わぬ、この命で国が救えるなら喜んで差し出す。」


ヨハネの悲壮な決意にクレイムと影武者は・・・・


【クレイム・ブルック】

「殿下、貴方を北の塔に幽閉いたします。」


【ヨハネ・スリザリー】

「何だと!」


【クレイム・ブルック】

「貴方は色々と知りすぎた。今、ここで降伏を唱えれば国の士気に関わります。」


【ヨハネ・スリザリー】

「貴様、家臣の分際で出過ぎた真似を・・・・ふぐっ!」


【影武者】

「殿下、申し訳ありません。」


ヨハネは影武者に液体状の睡眠薬を嗅がせられ、その後、北の塔へ幽閉された。影武者の部下が四六時中見張りにつき、ヨハネを監視したのである


【クレイム・ブルック】

「申し訳ありません、殿下。これも先王の御遺言のためにございます。」


ヨハネ・スリザリーは降伏を口にした罪で北の塔に幽閉されたことを発表した。臣下たちは益々、不満と不信感を増したのである。一方、スリザリー軍はミカロス城を攻めず、新しい道路を整備していたのである


【ゴードン・ラトロワ】

「ミカロス城を攻めるは下策、手間はかかるが安全策を取るしかない。」


スリザリー軍が新しい道路を作っていることを知ったラトロワ軍は密かに道路を作っている場所を斥候を使い調査した


【シメイ・エルサレム】

「新しい道路の整備か、よほどミカロス城が嫌なのだな。」


シメイは夜討ち朝駆けのふりをする策に出た。これによってスリザリー軍を疲労困憊にする作戦である


【シメイ・エルサイム】

「本気でやるな、あくまでふりだ、ふり。」


シメイの命を受けた奇襲部隊は昼夜問わず襲うふりを繰り返した。スリザリー軍の兵士たちは昼夜問わず襲い掛かるラトロワ軍に翻弄され、道路整備も相まって疲労困憊になっていた


【ゴードン・ロイヤル】

「くそ!人をコケにしおって!」


ゴードンは警備を増やしながら、奇襲部隊に対処していたが、今度はある問題に直面した


【ゴードン・ロイヤル】

「何!兵糧が届かないだと!」


【スリザリー軍の伝令】

「はい、街道が途中で土砂崩れにあい、兵糧が運べない状態です。」


兵糧も残り3日分しかなく、ゴードンはやむをえず、撤退の準備を始めたのである。ゴードンは奇襲部隊に警戒しながら、少しずつ撤退を開始したのである。途中から奇襲部隊を牽制しながら、撤退を続けたが、そこからラトロワ王国軍の追撃部隊が派遣され、1万の殿部隊と激突したのである。殿部隊は死力を振り絞り、守ってきており、追撃部隊にも徐々に増えてきており、シメイは退却命令を出したのである。その隙にスリザリー軍は撤退を続けたが、例の土砂崩れの街道に遭遇し、やむなく土砂を登りながら、少しずつ撤退をしていった。スリザリー軍が土砂を登っている最中にもラトロワ軍の追撃部隊が襲い掛かり、甚大な犠牲を払ったのである。ゴードンは命からがら逃げ伸びたが、多くの将兵が追撃部隊の刃に倒れたのである。スリザリー王国の国境に到着し、戻ってきた将兵は合わせて4万しかいなかったのである。第二次ラトロワ征伐は再び失敗に終わったのである


【ゴードン・ロイヤル】

「天は我等、スリザリー王国に味方をせぬのか!」


ゴードンは天に向かって吠えた。ゴードンは自分自身のふがいなさに苛立ち、徐々にすさんでいったのである。帰国したゴードンはまた驃騎将軍に降格され、クレイムは再び国力を回復させ、第三次ラトロワ征伐を計画していたが、ゴードンは完全にやる気をなくし、職を辞して、故郷に帰ろうとしたのである。クレイムは何度も引き留めたが、ゴードンは・・・・


【ゴードン・ロイヤル】

「だったら、お前がやれ。俺はもう知らん。」


ゴードンが本気と分かったクレイムは最後の別れと称して、ゴードンを宴に招いた。そしてゴードンの飲むグラスに毒を塗ったのである。秘密を知っているゴードンが他言することを恐れたクレイムは毒の入ったグラスに葡萄酒を入れて、飲ませた


【ゴードン・ロイヤル】

「う、ぶおっ!」


ゴードンは口から吐血し、そのまま倒れたが、ゴードンはクレイムを睨み付けた


【ゴードン・ロイヤル】

「お、おのれ~。」


ゴードンはクレイムを睨み付けたまま、非業の最期を遂げたのである


【クレイム・ブルック】

「悪く思うな、これも先王の遺言のためだ。」


ゴードンの葬儀は盛大に行われ、ゴードンは国の英雄として祀られたのである。ゴードン本人は無念だと知らずに・・・・














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