第10話

スリザリー王国は危急存亡の危機を迎えていた。何と大将軍ムッシュ率いる5万の遠征軍が一斉にラトロワ王国に寝返ったのである。臣下たちは先行きの不安で頭が一杯だった。クレイムはというと、何と第五次ラトロワ征伐の準備に取りかかっていたのだ。周囲は止めようとしたが、頑として聞き入れず、もはや自棄になっているとしか思えなかった


【クレイム・ブルック】

「やる気がないなら構わん!私だけでやる!」


クレイムは国力が消耗しているにも関わらず、無理矢理兵をかき集めたが、わずか50人しかおらず、クレイムは更に怒り狂った


【クレイム・ブルック】

「なぜじゃ!なぜじゃ!」


クレイムは周囲に当たり散らし、罵詈雑言を吐き捨てた。そんな姿を見ていた臣下は・・・・


【スリザリー王国の家臣】

「奸賊クレイム、覚悟!」


持っていた短刀でクレイムの背中を刺したのである。クレイムは顔が歪ませながら倒れ、家臣は止めを指そうとしたが、兵士たちに斬られ、絶命したのである。クレイムはすぐに医務室へ運ばれ、治療を受けていた。クレイムが刺されたという知らせが城内に響き渡り、後宮で入り浸っていた影武者の耳にも届いた


【影武者】

「何!丞相が!」


影武者はすぐに着替え、医務室へと向かって走った。医務室に到着し入ったところ、クレイムは意識不明の重体だった


【影武者】

「それで丞相の容態は!」


【侍医】

「はい、一命は取り止めました。」


【影武者】

「そうか。」


【侍医】

「刺客が持っていたナイフには猛毒が塗っておりました。傷口から毒が入り、身体中を蝕んでいましたが、解毒剤を飲ませましたゆえ、心配はいりません。」


影武者と侍医が話している途中、クレイムはうわ言をいい始めた


【クレイム・ブルック】

「ううう・・・・」


【影武者】

「丞相、何かワシに申し付けたい事があるのか!」


【クレイム・ブルック】

「ううう、先王、申し訳・・・・ありません。」


クレイムの口から先王という言葉に影武者は動揺した


【侍医】

「意識が混濁しているのでしょう。」


【影武者】

「そうだな。」


影武者は落ち着き払っていたが、内心はビクビクしていた。いつかクレイムが自分が影武者であることを周囲にばらすかもしれない


【影武者】

「やられる前にやるしかない。」


そして夜になり、皆が寝静まったころ、影武者の命を受けた部下は医務室に入り、クレイムが眠っているベッドへ向かった。クレイムは麻酔を打たれ、眠っていた。そこへ無味無臭の毒薬を口に飲ませた。そしてそのまま退散し、そのまま夜明けを迎えた


【侍医】

「丞相!丞相!」


侍医が駆けつけた時には、クレイムは既に冷たくなっており、完全に死亡したのである。影武者はクレイムが死んだと聞き、内心は安心した


【影武者】

「これでワシの秘密を知る者は誰もいない。」


影武者はこれで邪魔者がいなくなったと思い、再び後宮に入り浸るようになった。今までクレイムが政治を行っていたことや、優秀な人材を粛清したことで、誰も政治を運営する人材がおらず、国としての機能が完全に停止したのである。クレイムの葬儀は行われず遺体は火葬にしてブルック家の墓に入れられた


場所が変わり、ここはラトロワ王国、丞相のクレイムが死去した事がカエサルの耳にも伝わったのである


【カエサル・ラトロワ】

「ハハハハハハ!そうか頼みの綱のクレイムも死んだか!」


【ジョウ・バッハ】

「御意!」


【カエサル・ラトロワ】

「うむ、シメイに命じよ!軍備を整え、スリザリー征伐を行うとな!」


【ジョウ・バッハ】

「ははっ!」


直ちに早馬はミカロス城へ走らせた。シメイの方でもクレイムが死去した事が知らされており、軍の編成に努めた。早馬が到着し早速、カエサルの命がシメイに言い渡された


【ラトロワ王国の使者】

「大将軍シメイはすぐさま軍備を整え、スリザリー征伐に向かうべし!」


【シメイ・エルサレム】

「承知仕りました!」


使者が帰った後、シメイは将兵たちを集め、スリザリー征伐を行う事を知らせた


【シメイ・エルサレム】

「陛下は断固たる御決意にて、スリザリー征伐をお決めなられた!」


【オータム・ストーン】

「いよいよ反撃ですな!武者震いがいたします!」


【シメイ・エルサレム】

「ムッシュよ、道案内を任せる!」


【ムッシュ・アルタイル】

「はっ!お任せあれ!」


【シメイ・エルサレム】

「では各方、参ろうぞ!」


【ラトロワ王国の将軍たち】

「おおおおお!」


ラトロワ軍はスリザリー王国の国境を突破し、順調に進軍を開始した。途中で村や町を見て回ったが、誰もおらずゴーストタウンの様相と化していた


【シメイ・エルサレム】

「町や村を見て回ったが、ここまでとは。」


国民だけではなく兵士たちも逃亡しており、砦はもぬけの殻でスムーズに進軍することができたが、シメイは国民と兵士たちが逃げ出すほどの悪政をやって来たのかと心底思い始めた


そのころ後宮に一休みしていた影武者に部下が駆けつけラトロワ軍が城に向けて進軍していることを報告した


【影武者】

「何!それは本当か!」


【部下】

「はい、こちらに向かって進軍しています!」


【影武者】

「そうか!こうなったら逃げるぞ!」


【部下】

「はい!」


影武者と部下たちはすぐに馬車を用意し食糧と水を入れて、そのまま逃亡したのである。影武者がいなくなった事を知った家臣たちは激怒した


【スリザリー王国の臣下A】

「くそ!あの野郎、逃げやがった!」


【スリザリー王国の臣下B】

「もう辞めた!私はラトロワ王国に降伏するぞ!」


【スリザリー王国の臣下C】

「早速、使者を送ろう!」


スリザリー王国は直ちに降伏の使者をラトロワ軍の下へ送った。降伏の使者は途中でラトロワ軍に遭遇し、降伏する旨を伝えた。降伏の使者はすぐさまシメイ・エルサレムに対面した


【シメイ・エルサレム】

「ほう、降伏すると?」


【スリザリー王国の使者】

「はい、我等はスリザリー王国は降伏いたします。」


【シメイ・エルサレム】

「それはオウキ国王陛下の申し出か?」


【スリザリー王国の使者】

「いいえ我等、臣下一同の一存にございます!」


【シメイ・エルサレム】

「どういうことだ?」


話を聞くと、どうやらスリザリー王国国王は既に逃亡しており、付き合っていられないと思い、臣下一同が降伏の使者を送ったのだという


【シメイ・エルサレム】

「勝手に戦争を起こして、勝手に逃亡するとは、何と情けない男だ。」


【スリザリー王国の使者】

「はい、我等も腹立つ思いにございます!」


【シメイ・エルサレム】

「分かった、降伏を受け入れよう。城の明け渡しと王太子とそなたらの妻子を人質として我が軍に送ってもらおう。」


【スリザリー王国の使者】

「承知いたしました。」


その後、交渉は順調に進み、臣下一同は王太子のフルート・スリザリーと自分の妻子を人質としてラトロワ軍に送った。王太子のフルートと臣下の妻子たちはそのままラトロワ王国へと送られた。そのまま進軍を開始し、首都に到着した。首都は完全にゴーストタウンと化しており、あまりにも殺風景だった。そして城の明け渡しも平和裏に行われ、スリザリー王国は終焉を迎えた


そのころ影武者たちは食糧と水が底をつき、近くに民家がないか確認していたところ、村を発見した


【部下】

「あそこに村があります!」


【影武者】

「おお!あそこで水と食糧を分けてもらおう!」


影武者と部下たちは村に入ったが、誰もいなかった


【影武者】

「誰もいないのか?」


影武者たちは周辺を確認していると・・・・ヒューン


【影武者】

「ぐふ!」


影武者の背中に矢が刺さった。部下たちが影武者の下へ駆けつけると、そこに武器を持った村人が襲いかかった!影武者と部下たちは武器を取り、反撃したが多勢に無勢、次々と討ち取られた


【影武者】

「や、やめろ。」


【村人】

「キエエエエエエエ!」


影武者の命乞いは村人に止めを指され、絶命したのである。村人たちは金目のものがないか、くまなく調べたが、何もなかったため、腹いせに影武者たちの遺体を解体され、血肉に餓えた山犬や禿げ鷲たちに食べられたのであった


結局、オウキ・スリザリー(影武者)は行方不明のまま、スリザリー王国とラトロワ王国の戦争は完全に終止符が打たれたのである


だがスリザリー王国の駒として戦い、まず失われた兵士と国民の命である。しかし、彼らの犠牲は無駄に終わり、その死はついに報われることはなかった







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