第6話

スリザリー王国はお通夜状態であった。大将軍であるゴードンが突然死したため、将兵たちは意気消沈していた。国力も著しく消耗し、将兵も多く失ったため、回復するのに2年の歳月がかかった。クレイムは急遽、車騎将軍であるシルバー・ハートを大将軍に任じた。そう第三次ラトロワ征伐の旗頭として主戦派のシルバーを総大将に任命したのである。シルバー自身も亡き大将軍であるゴードンを信奉しており、雪辱を晴らすために第三次ラトロワ征伐に意欲を燃やしていた


【クレイム・ブルック】

「シルバー殿、スリザリー王国の命運は貴殿にかかっている、頼んだぞ。」


【シルバー・ハート】

「はっ!お任せあれ!」


シルバー・ハート主導の下、国民徴兵制を断行、将兵の訓練に勤しんだ。シルバー・ハートは更に屯田兵を創設し、長時間戦闘できるように農地開墾を推し進めたのである


スリザリー王国に侵入している隠密の知らせで第三次ラトロワ征伐計画を知ったラトロワ王国では・・・・


【カエサル・ラトロワ】

「彼の国にも困ったものだ。」


懲りずにラトロワ王国を攻めるスリザリー王国に正直、嫌気が差していた


【ジョウ・バッハ】

「畏れながら陛下に申し上げます。」


ジョウ・バッハ、ラトロワ王国の丞相でカエサルからの信頼が厚くラトロワ王国の外交と内政を担当している


【カエサル・ラトロワ】

「申してみよ。」


【ジョウ・バッハ】

「はっ!恐らくスリザリー王国は我等の方から和睦を申し入れるのを待っているのかと存じます。此度の遠征も本気ではなく、あくまでパフォーマンスでございます。」


【カエサル・ラトロワ】

「パフォーマンスだと?」


【ジョウ・バッハ】

「はい、スリザリー王国は先の二度の遠征で連戦連敗を繰り返しているのに、遠征を繰り返しております。彼の国は我等が根負けするのを待っているのでございます。」


【カエサル・ラトロワ】

「つまり我等が折れるのを待つまで奴等は無駄な徒労をいつまでも続けるということか。」


【ジョウ・バッハ】

「御明察に通りにございます。」


【カエサル・ラトロワ】

「ふん、アホらしい。スリザリー王国の国王も堕ちる所まで堕ちたな。それに付き合わされる家臣と国民はたまったもんじゃないな。」


【ジョウ・バッハ】

「実は私に策がございます。」


【カエサル・ラトロワ】

「何だ?」


【ジョウ・バッハ】

「はい・・・・」


所変わって、ここはスリザリー王国の北の塔、ここには王太子のヨハネ・スリザリーが幽閉されていた。塔の中には風呂場やトイレ、食事も三食提供されたが、影武者の部下たちに四六時中監視され、途方に暮れていた


【ヨハネ・スリザリー】

「クレイムは国を乗っ取るかもしれん。」


ヨハネは、あれから約3年の月日が流れたというのに遺言は果たされていない。3年は死を隠せと言ったが、臣下たちは玉座に座っているのが影武者とは知らずに従っている。このままこの国の王として君臨している。影武者を利用し、自身の独裁政治が続け、やがては国を乗っ取り、自分を亡き者にするかもしれないと感じたのである


【ヨハネ・スリザリー】

「父上、貴方はやはり間違っていたんだ。ゴホッ!ゴホッ!」


ヨハネはこの時から病を得て、体調を崩したが、医者は呼ばれず放置されていた。自分が死ぬのをクレイムは待っていると確信し、ついに・・・・


【ヨハネ・スリザリー】

「父上、あの世にて会いましょう。」


ヨハネは絹の布地で思い切り首を締め、死亡した。15歳という若さであった。ヨハネが自殺したことを知った影武者とクレイムは・・・・


【影武者】

「丞相、いかがされるのですか!殿下がお亡くなりになられました!」


【クレイム・ブルック】

「他の御方を後継者に立てればよいではないか。」


影武者は淡々と言うクレイムに耳を疑った


【影武者】

「丞相、正気でございますか!」


【クレイム・ブルック】

「むしろ秘密を知る者がいなくなっただけ。これで思う存分、ラトロワ討伐を再開できる。」


【影武者】

「・・・・丞相、あれから3年が立っています。亡き先王は3年は死を隠せと遺言されましたが・・・・」


【クレイム・ブルック】

「このまま隠し通す。幸い誰も気づいておらぬ。このまま先王の死は永久に隠し通すぞ。」


【影武者】

「・・・・御意。」


ヨハネ・スリザリーは表向きは病死したことをスリザリー王国内で発表され、跡継ぎは先王の亡き弟の忘れ形見でヨハネの従兄弟であるフルート・スリザリー、今年で5歳になる王子が王太子に任命された


【影武者】

「フルートよ、王太子として文武に励むように。」


【フルート・スリザリー】

「はい!」


フルートの後見役はクレイム・ブルックが努め、本格的にクレイムの独裁政治が始まるのである。その事を危惧した反クレイム陣営筆頭のジオス・ユークリッド公爵は、密かにラトロワ王国の隠密と出会っていた


【ジオス・ユークリッド】

「ではラトロワ陛下は我が国が降伏すれば我々の身は保障すると?」


【ラトロワ王国の隠密】

「左様にございます。陛下はこれ以上無駄な血を流される事を嫌っております。貴方方が手引きすれば平和裏に解決でき、貴方方の処遇も保障すると陛下は仰っています。」


【ジオス・ユークリッド】

「・・・・その手引きとは?」


【ラトロワ王国の隠密】

「貴国の丞相であるクレイム・ブルックを亡き者することです。」


【ジオス・ユークリッド】

「何と!」


【ラトロワ王国の隠密】

「貴国の国王陛下は今ではクレイムのいいなりにございます。クレイムを亡き者にすれば貴国の国王陛下は孤立したも同然にございます。そこで貴方方が国王陛下を説得するのです。もし拒めば幽閉をすればいいのです。」


【ジオス・ユークリッド】

「フルート殿下はいかがいたす?」


【ラトロワ王国の隠密】

「フルート殿下は王族としての処遇を与えます、ご安心を。」


【ジオス・ユークリッド】

「分かった。」


ジオスは覚悟を決め、クレイムの暗殺に踏み切るのである。そこでジオスはクレイムに屋敷へ招いて、宴を催す事を誘ったがクレイムはこれを拒否し屋敷へと帰った


【ジオス・ユークリッド】

「こうなれば陛下の王命と偽り、城に誘い出したところで暗殺する。」


偽の使者を送り、直ちに登城するよう命を受けたクレイムは・・・・


【クレイム・ブルック】

「おかしい影武者が私を直接呼びつけるなんてありえん、必ず部下を通してくるものだ。さては誰かが私を誘い出し暗殺する気だな!」


クレイムは仮病を使い、登城を停止する一方で自分を暗殺する一派の調査を行った。調査の結果、ジオス・ユークリッド率いる一派の仕業と分かり、直ちに粛清を行った


【クレイム・ブルック】

「ジオス・ユークリッド及びその一派は畏れ多くも、陛下の王命を偽装する他、あろうかラトロワ王国と気脈を通じていたことが分かった。直ちに一派と家族にを斬罪の刑に処す!」


ジオス・ユークリッド率いる一派と家族郎党は捕らえられ、斬首の刑に処された。しかしクレイムの心中は疑心暗鬼に陥っており、誰が裏切るのか神経を研がさせていたのである


【カエサル・ラトロワ】

「そちの策は上手く言ったようだな。」


【ジョウ・バッハ】

「はい、クレイムの暗殺に成功した場合は我々と気脈を通じた者たちが国を売り渡す算段であり、失敗してもスリザリー王国の人材が粛清され、国王もクレイム自身も疑心暗鬼に陥りますので、我が国にとってはどちらも利のある策にございます。」


【カエサル・ラトロワ】

「これでスリザリー王国も迂闊には手は出せぬな、ははは。」


ラトロワ王国が巡らした策略によってスリザリー王国は衰退の一歩を歩んでいくのであった





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