第123話 オマケ:異世界のお姫様、日本を観光する

 爽やかな朝の光。

 チュンチュンと雀のサエズリが心地良い。


「ふー、やっぱり母ちゃんの殺人焼きそばは最高だぜ!」


 朝から母ちゃんの焼きそばを食える俺は本当に幸せ者だ。


「本当に美味しいよねっ!」


 俺の言葉にうんうんと頷きながら、真理亜が殺人焼きそばを大口を開いてかっこんでいる。

 この焼きそばはデビルソースとトリカブトで、体に明確な害が出ないギリギリの分量で絶妙な味付けとなっているわけだ。

 そうなんだよな。

 殺人焼きそばは、ただ美味いだけじゃなくて、ギリギリのデンジェラス感までを味わせてくれるんだ。

 これはもう料理という概念すらも超えていて、一種のエンターテイメントと言っても差し支えない。


「……ん?」


 と、そこで俺は小首をかしげた。


「そういえば真理亜はこの前、母ちゃんの飯を不味いって言ってなかったっけ?」


「え? 私がそんなこと言う訳なくない? だって母さんのご飯だよ?」


 ああ、そういえばこいつ……魔法少女時代は味覚障害になってたんだっけか。

 んでもって、あの時のことは覚えちゃいねえし。

 今は姫さんの魔法のおかげで元通りだけど、本当に助けて良かったと思うぜ。

 なんせ、味覚が戻ったおかげで、母ちゃんの飯を……美味いものを美味いって感じることができるようになったんだからな。


「で、真理亜?」


「なぁに? お兄ちゃん?」


「どうしてお前は俺の膝の上に座っているんだ?」


「え? 別に私がどこに座ろうとお兄ちゃんに関係なくない?」


「どう考えても関係あるだろ?」


「どうして?」


「飯が食いにくくて仕方がないんだが?」


 しばし考えて真理亜はシュンと肩を小さくさせた。


「……確かにそうだね」


「で、どうして俺の膝の上に?」


 そこで周囲に視線を向けて、真理亜はクルリと俺に向き直った。


 この姿勢は我が家のリビングは手すりの無い背もたれだけの丸椅子なので成立する……まあ、なんというか、いわゆる……対面座位っぽい姿勢だ。


 ちなみに、真理亜は寝起きはTシャツにショーツというパターンが多くて、今も当然その状態だ。


「……だって」


「だって?」


「……家に知らない人達が……いるから」



「妹ちゃんはまだ私たちに慣れないってワケ? もう4日も経つってのに……うん、やっぱ美味しいわね」


 母ちゃん特製のカツサンド(本気を出していないもの)を口に運びながら、うんざりとして口調でレーラはそう言った。

 ちなみに、カツサンドとサラダとスープとコーヒーだけで一食5千円も母ちゃんは取っているらしい。

 ボッタクリも良いところだが……まあ、母ちゃんの飯にはその価値があるのは誰しもが認めるところだ。


「森下母殿。この自家製のアジの開きは最高ですなっ!」


 上機嫌のセラフィーナ先生はそのまま味噌汁を口に運び、美味いと涙を流している。

 まあ、ともかく、この二人は毎日一食5000円で俺の家に飯を食いに来るのだ。

 と、涙を流しているセラフィーナ先生に、大げさなんだよ……と、俺が笑っているところで――


「森下君のお母さん? 私はローストビーフ丼のおかわりを要求するわ」


「阿倍野輝夜! なんでアンタまで普通に飯食ってんだよっ!」


「いや、この家のローストビーフが気にいったから……」


 と、そこで――金髪の爆乳は台所の母ちゃんに向けて大声で叫んだ。


「ダイキさんのお母様! 殺人焼きそばのおかわりを……お願いしますっ!」


 姫さんに向けてレーラが呆れ顔で口を開いた。

 ちなみに、大魔術師のアナスタシアはすぐに帰ったが、姫さんは大事な用事があるということで2週間だけこっちの世界にとどまることにしたらしい。

 で、姫さんが滞在しているのはお隣さんの――レーラ宅となっている。


「本当にソレ……美味しいの? 姫様はこの兄妹の血縁者ってワケでもないんでしょ?」


「ええ、美味しいですよアリエル。その……私って実はハーフエルフなんですよね。人間の国王とエルフの母……そこには考えるだにややこしい事情がありました。と、それはさておき、この焼きそばはエルフ族の伝統の味に通じるものがあるのですよ」


「と、言うと……?」


「私のお母様……おふくろの味を思い出すのです。お母様の普段の料理はいつもこんな感じでした」


「エルフってすごいモノ食べてるのねっ!? 流石は異世界だわっ!」


「異世界? エルフ? お兄ちゃん……やっぱり私……怖い……」


 頭の変な人たちが家にいる……的な感じで、おびえた様子で真理亜は俺にギュっと抱き着いてきた。


 そこで台所から母ちゃんの笑い声が聞こえてきた。



「本当にダイキちゃんとマリアちゃんは仲が良いですねー」



「……まあ、お兄ちゃんが本当のお兄ちゃんじゃなかったら好きになっちゃってるくらい、私――お兄ちゃんっ子だし?」




 サイド:母ちゃん


「本当にダイキちゃんとマリアちゃんは仲が良いですねー」


「……まあ、お兄ちゃんが本当のお兄ちゃんじゃなかったら好きになっちゃってるくらい、私――お兄ちゃんっ子だし?」


 その言葉を聞いて、私は台所で一人、思わず笑いをこぼしてしまったのです。


 まあ、そりゃあそうですねーと天井を見上げ、誰にも悟られることのないようにニヤリと笑います。

 そうして、本当に小さな声で呟いたのでした。


「まあ、本当の兄妹じゃありませんですからね」





サイド:森下大樹


 母ちゃんからローストビーフ丼を受け取った阿倍野先輩は瞬く間に丼を平らげていく。

 そして丼が空になり、彼女は優雅な仕草でお茶をすすった。

 更に、中世の貴族然とした気品あふれる仕草でハンカチを取り出しで唇をぬぐった。

 この上無く上品な顔立ちで、凛とした眼差しを作った阿倍野先輩はそこで――ゲプリと大きなゲップを一つ。


 ――本当に酷いなコイツ。みんなはまだメシ食ってんだぞ。


 そこで阿倍野先輩は姫様に視線を送る。


「ふむ……」


 姫様の顔をマジマジと眺めて、そして阿倍野先輩は懐からコンパクトを取り出して鏡で自分の顔を確認する。


「……顔は……互角」


 そしてコンパクトを懐にしまった彼女は姫様の胸に視線を送った。


「うぐっ……」


 眉間に皺を寄せながら、阿倍野先輩は自分の胸に視線を落とす。


「私も一応はFカップ――爆乳の領域なのだけれどね」


 そうして阿倍野先輩は俺に語り掛けてきた。


「――胸は大きさじゃなくて形よ。そう思わない? 森下君?」


「突然変な話題を振らないでくださいっ!」


「激しく同意するわ! 阿倍野輝夜っ!」


「そうそう、胸は大きさじゃなくない? 形じゃない?」


 貧乳組の二人が乗っかってきた。


 そこで阿倍野先輩はクスリと笑った。


「最低Dカップ以上があることが条件よ。ある程度の大きさ以上の上で――形とのバランスが重要になってくるわ。残念だったわね――レーラ=サカグチ」


「ちょっとアンタ表に出なさいっ! そろそろ白黒つけてやるわっ!」


「ケンカは止めはせんが……母ちゃんの段取りもあるから、せめて飯を食ってからにしてくれ。皿を片付けられんだろう」


 ぐぬぬ……とレーラがカツサンドにかぶりついたところで、阿倍野先輩が再度姫さんに視線を向ける。


「――ところで、姫様はどうしてこちらに留まることに?」


 姫さんは少し困った表情で微笑を浮かべた。


「こちらの世界でやらなくてはいけないことがあると以前にお伝えしましたが……」


「それは聞いているけど、具体的にはやらなくてはいけないこと……とは?」


「それは……非常に言いにくいことなのです」


「言いにくいこと? なおさら聞きたくなったわね。教えなさいよ」


「どうしても教えなくてはいけないでしょうか?」


「ええ、とても気になるわ」


「実は私もアナスタシア――魔術師と一緒に帰るつもりだったんですが、彼女が半ば無理やりに私のことをこちらの世界に留まるように仕向けたのです」


「と、いうと?」


 そうして姫様は軽く頬を染めて俺の方に視線を向けてきた。

 目が合うと、恥ずかしそうに姫さんはすぐに視線を逸らしてまつ毛を伏せた。


「まあ……せっかくだから気持ちをきちんと伝えてこいと怒られましてね。次はいつに会えるか分かりませんし。それが私のやらなくてはいけないことです」


 俺に気持ちを伝える?

 言いにくい隠し事でもあったのかな?

 まあ、何のことだか良くわからんが――と、そこで俺は女性陣の表情を眺めて絶句した。

 そう、つまりはこの状況を一言で言うと――


 ――空気が凍っていたのだ。


「ねえ、姫様?」


「何でしょうかアリエル?」


 恐る恐るという具合にレーラは姫さんに尋ねかけた。


「本気……なの?」


 レーラの言葉に姫さんは大きくうなずいた。


「ええ、本気です」


 その言葉でレーラはフラリと倒れかけた。


「えーっとね……姫様? 何て言ったら良いのかな……私とか森下大樹とか阿倍野輝夜とかの……まあ、こっちの関係って絶妙な感じの危うい感じで騙し騙しで一見は平和的に成り立ってるのよね」


「ふむ?」


「簡単に言うと、三角関係とかややこしいところに、核爆弾を持ってこられると……凄い困るというかなんというか。私はこのままの感じでしばらくグダグダやるのが一番良いかなって思ってるし」


 そこで姫さんは阿倍野先輩とレーラに視線を送り、全てを納得したように頷いた。


「なるほど、そういうことですか。アリエルも大人になったのですね」


 と、そこで姫様は首を左右に振った。


「しかし、そういう訳にもいかないのです。次はいつ会うことができるか分からないのですから」


【スキル:ラブコメ主人公補正(強)が発動しました。森下大樹はとても鈍くなりました】


 ん? 神の声が発動したような……。

 ってか、こいつら何の話をしているんだ?

 話がサッパリ読めないぞ。


「――ともかく」


 氷の微笑を浮かべながら阿倍野先輩は立ち上がった。


「どうしたんですか先輩?」


「私は学校に行くわ」


「え? みんなで一緒に行かないんですか?」


「ええ、私は私で――考えがあるの」


 と、それだけ言うと阿倍野先輩は家の玄関へと向かったのだった。








 その日の夕方。

 姫さんはレーラの家でお留守番とのことで、レーラはヴァチカンの会合があるだとかで俺は珍しく一人で下校していた。

 と、そこでスマホが鳴った。


「阿倍野先輩からメール?」


 メールを開いてみると、そこにはこんな一文が書かれていた。


『保留を続けていたけれど、事情が変わったわ。今夜決行よ』


 今夜決行? 一体全体何のことなんだ?

 またややこしい退魔の案件に巻き込まれてやがるのか?


 とりあえず俺は、『決行って何をですか?』とメールを返した。

 すると、ほどなくしてメールが返ってきた。

 そして、メールにはたった4文字でこう書かれていた。



『セクロス』




 ――しばし俺はフリーズする。


「セクロス……だと?」


 いや、阿倍野先輩が処女ビッチだということは知っているが、いくら何でもこれは直接的すぎる。


『セクロスって何のことなんですか?』


 メールを返すが、返信は無い。


 そうして俺は家に帰って風呂に入り、とりあえず股間を念入りにボディソープで洗ったのだった。










「セクロスって一体……マジなのかあの人は」


 今更言うまでも無いが、先輩は奇麗だ。それはもう物凄い奇麗だ。


 ――そして、オッパイがでかい。超デカい。


 ぶっちゃけると初体験としてバッチ来い的な感じはあるんだが、それにしても唐突過ぎる。


「セクロス……」


 とは言え、俺も健全な青少年だ。魅惑の単語を使われてしまうと、すっごいドキドキする。

 ベッドに寝転がりながら、スマホを弄るがやはり返答はない。

 バックンバックンと心臓は高鳴り、俺のドキドキは最高潮に達する。

 と、そこでベランダガコンコンと鳴った。

 はたしてそこには阿倍野先輩の姿があった訳だが……。


「普通にベランダから入ってくるんですね」


 今までもベランダからスパイ〇ーマンよろしくでこの人は俺の部屋に侵入してきたことはある。

 正直、ドン引きだがそれを阿倍野先輩に言っても始まらない。


「こんばんは森下君」


 それだけ言うと、阿倍野先輩は俺の部屋に当然のように入ってきて、そしてベッドに腰掛けた。


「……」


「ウブなのね。こっちに来なさいよ」


 ちょんちょんと阿倍野先輩はベッドの横の空間を指さした。


「……失礼します」


 俺は阿倍野先輩の横に座り、そして押し黙った。


「……」


「……」


「……」


「……」


 しばし二人が押し黙った後、阿倍野先輩はクスリと笑った。

 そうして生暖かい吐息を俺の耳に吹きかけてきた。


「どうして黙っているの? ドキドキしているの?」


 そう言って、先輩は俺の太ももに指を這わせた。

 触れているか触れていないかの絶妙な指加減。

 ドギマキする俺の胸に、先輩は自らの耳をあてがった。


「凄くドキドキしているわよ森下君?」


「……いや、まあ……そりゃあそうなるでしょうよ」


 と、阿倍野先輩は今度は俺の頬にツ――っと、指を這わせた。


「それじゃあ始めましょうか森下君」


「始めるって……?」


「セクロス」


「……マジですか?」


 そうして阿倍野先輩は大きく頷いた。


「……マジよ」


「セクロスって一体何なんですか?」


 そうして阿倍野先輩はクスリと笑った。


「セクロスは――セクロスよ」


 これ以上ない回答に、俺は「おいおいマジかよ……」と、生唾を呑んだのだった。


「マジ……ですか?」


「ええ、マジよ」


 ベッドに腰掛けて隣り合って座っている格好。

 ドギマギした俺の手を、阿倍野先輩が握ってきた。

 少しだけ冷たい手だが、プニっとした柔らかさが心地良い。


「あの……本当にマジなんですか?」


「何度も言うけど――マジよ」


 それだけ言うと、阿倍野先輩は俺をベッドに押し倒した。


「……」


「……」


「……」


「……」


 見つめあうこと数秒、上になった阿倍野先輩はトロンとした表情を作る。

 そして先輩は少しだけ頬を染め――


 ――ゴクリと二人が生唾を飲み込んだ音が、同じタイミングで部屋に響く。


 そうして阿倍野先輩は俺の着ているTシャツを脱がそうとして――


「ダイキちゃーん、夜食の殺人ヤキソバですよー!」


 母ちゃんがトレイを片手に部屋に入ってきた。


「は、は、は、はっ……はわわーっ!」


 半裸の俺と、阿倍野先輩を視認し、母ちゃんは殺人焼きそばを部屋のフローリングに盛大にブチまけた。

 ってか……と俺は思う。


 ――お約束過ぎんだろっ!? 何十年前のラブコメ展開なんだよっ!?


 意地でも運命の神様は、俺の童貞を捨てさせたくないらしいな。


「な、な、な、なっ――何をしているですかっ!? 二人は何をしているですかーっ!?」


 阿倍野先輩は押し黙った。

 そして大きく大きく息を吸い込んで彼女はこう言った。



「――お医者さんごっこよ」



 その言い訳……無理ありすぎるわっ!

 ってか、高校生の男女でお医者さんごっこってのも、それはそれで問題だろっ!?

 と、その言葉を受けて母ちゃんはしばし考え、そしてポンと掌を打った。


「なるほどー。お医者さんごっこなのですかー。それなら納得なのですー」


 納得するんかいっ!

 母ちゃんの頭の中どうなってんだよっ!?

 と、俺がゲンナリしていたところで、母ちゃんはそそくさとフローリングにブチまけられた焼きそばの掃除を始める。

 そうして待つこと数分、綺麗になったところで母ちゃんはこう言って部屋から去っていった。


「それじゃあ阿倍野さんも早く帰るのですよー。もう夜も遅いですしー」


 バタンとドアが閉じたところで、俺と阿倍野先輩は密着していた体を離して、再度ベッドに腰掛けた。


「興がそがれちゃったわね」


「……そうですね」


「ところで森下君?」


「はい、何でしょうか?」


「前に海辺に私が貴方に告白したときのことを覚えているかしら?」


「――忘れる訳がありません」


「あの時、貴方は私に『そういうことはちゃんと好きになってから……もっと私のことをちゃんと知ってから……』的なことを言っていたわよね」


「そうですね」


「――どうして今日は拒否しなかったのかしら?」


 俺はしばし考えた。

 そうして、ため息交じりにこう言った。


「……そうですね。無理やり迫られた場合であれば、拒否反応が出ない程度には――俺は先輩のことをきちんと知ったってことなんだと思いますよ」


 そこで先輩は一瞬だけ驚いたように目を見開いて、しばし何かを考える。


「……つまり?」


「無理やりに迫られて、既成事実を作られちゃったら……まあ、俺もそれはそれで仕方ない。覚悟を決めようって思える心境になったって話です」


 そうして、先輩は立ち上がった。


「あら? もう午後11時ね。それじゃあ私はこれで――お暇いとまするわ」


「えっ!? アンタ何しに俺ん家に来たんだよっ!?」


「貴方のお母さんにも早く帰れと言われたしね。それじゃあまた明日ね……」


 俺の言葉には取り合わずに、阿倍野先輩はベランダから外に出ていった。

 っていうか、本当にこの人は普通にベランダから出入りするよな……。


「ってか、本当に一体……何なんだよあの人……」


 と、俺は脱力しながら阿倍野先輩を見送ったのだった。






・サイド:阿部野輝夜


 帰り道。

 私は路地を歩きながらため息をついて月を見上げた。


「今日は覚悟を決めて、本当にそのつもりで来たのだけれどね……」


 お風呂に入って念入りに体も洗って、化粧もバッチリだし香水もお気に入りの物をふってきた。

 でも――と私は思った。


 ――彼の、私のことを知ったから拒否反応が出なかったという言葉で、私は思いなおしたのだ。


 別の女が現れたからと言って、それで焦って彼と無理やりに既成事実を作るようなのは、それは違うと。

 それに、彼の‥‥…既成事実を作られたら仕方ない、覚悟を決める……と、そういう言いぐさも、それは違うと思った。


 そう――


 ――私は自然な形で、彼とそういう関係になりたいと思ったのだ。


 彼が私を本気で愛してくれて、彼が私を本当に求めた時……普通の恋人同士がそうするように……ね。


 例えば、それはきちんと付き合ってから、数か月後のクリスマスでも、あるいはバレンタインデーでも良い。

 私が思ったのは、そんな形で自然に……という話なのだ。


「ガラじゃないというのは分かっているけれど……」


 と、いうか私自身がビックリだ。

 まさか私が……恋する乙女みたいな、いや、夢見る少女みたいなセンチメンタルな気持ちになるなんて。


 悔しいけれど、彼が私の心を激しくかき乱しているのは事実だ。

 そんなことを今日、私は再確認してしまった。

 私はなんだか自分が負けたような――そんな気持ちになってくる。

 悔しいようでいて、切なくて、けれどそれが何故だか……どことなく微かに心を躍らせる。


「……やっぱり……好きなのよね。彼のことが本当に」


 そうして私は帰路へとついたのだった。







サイド:森下大樹


高校の帰り道、俺は阿倍野先輩と一緒に歩いていた。


「横浜見学ツアー?」


「ええ、姫様ってあと数日もすればあっちに帰っちゃうんですよね。だから、ちょっと横浜を見学してもらおうと思って」


 そこで阿倍野先輩は不機嫌になりながら、長髪をかきあげた。


「で、私にそれを言って……どういう意図なの?」


「先輩にも一緒に行ってもらいたいんですよ」


「どういうこと?」


「今の俺はちゃんと楽しくやってるって姫様にも見せたいって意図はありますね。あの人、色々心配性で……俺のことを大丈夫かって気にかけてるし」


「楽しくやってることを見せつける為に私を同伴……ね――」


 しばし阿倍野先輩は何かを考えて、不機嫌な表情を氷解させた。


「グッドアイデアよ! 乗ったわ! 私達二人の仲を……見せつけてやろうじゃないのっ! あの巨乳お化け……ホルスタインにっ!」


 何かやる気マンマンになった風の阿倍野先輩。

 一体この人は何なんだと思いながら、俺は言葉を続ける。


「後、レーラと妹も連れていきます」


 芸人さんも真っ青のオーバーリアクションで阿倍野先輩はその場でコケそうになった。

 彼女はワナワナと肩を震わせて、そして思い直したように口を開いた。


「貴方に空気読めと考えるほうが愚かだったわね」


「空気?」


「もう良いわ。そういう人だものね」


「と、それは良しとして先輩? それで横浜観光でどこに行こうかと思っているんですけど、意見を聞きたいんですよ」


「意見?」


「何度もこっちの世界に来れる訳じゃないし、せっかくだから楽しんで貰いたいんですよ、俺は」


 そこで阿倍野先輩は軽くため息をついた。


「ねえ森下君?」


「何でしょうか先輩?」


「はたしてそれは私に尋ねるのは適切なのかしらね?」


「と、おっしゃいますと?」


「言っちゃあアレだけど、私は性格が悪いわ」


「知ってますよ」


「そんな私に、人をもてなす精神なんてあると思う? いや、むしろ私は悪だわ。いや――ワルなのよ」


「ほう、ワルですか?」


「ええ、私はワルよ」


「具体的にはどんな感じでワルなんですか?」


「そうね、例えば昔にこんなことがあったわ」


「はい、何でしょうか」


「聞いて驚かないで頂戴ね?」


「国宝を他国に売り飛ばした人間の話ですからね。多少のことでは驚きませんよ?」


「ふふ、そんなくだらないことと、今から私が語る過去の悪さ話を一緒にしてはいけないわ」


「そんなにヤバいことをしていたんですか?」


「ええ、そりゃあもう空前絶後のワルよ」


「一体……どんな悪さをしていたと言うんですか?」


「私は幼女時代――」


 阿倍野先輩は押し黙った。

 そして大きく大きく息を吸い込んで彼女はこう言った。



「――カ〇ピスを原液で飲んでいたわ。親に隠れてね」



「確かにそりゃあワルだなっ! ものすっごいワルだなっ!」


「ふふ、それが私の幼女時代よ」


 く、くっ、くっだらねえ……。

 確かに、ワルと言えばワルだが……。


「で、どうなんですか?」


 と、そこで阿倍野先輩は小さく頷いた。


「私に意見を聞くというよりも、むしろそれは私に全て任せて欲しいわね」


「姫様をどこに連れていくかっていうことですか?」


 ええ、と阿倍野先輩は再度大きく頷いた。


「そうよ。貴方は何も考えなくても良い。タイタニック号に乗った気分で――ドンと構えていれば良いわ」


「沈む船かよっ!」


「それじゃあ、ツアー決行は明後日と明々後日の土曜日と日曜日で良いのね?」


「ええ、そうなりますね」


「まあ、一応ちゃんと考えてみるからそこは安心なさい」







 そして翌日の深夜、阿倍野先輩から観光ツアーのスケジュールがメールの添付画像で届いた。

 小学校の遠足とか修学旅行なんかの『旅のしおり』っぽい感じで、物凄い本格的だ。


 ・輝夜にゃんプロデュースっ! 横浜観光ツアーっ!


 という表題の表紙だった。


 表紙の絵は凝っていて、2Dにデフォルメされた先輩のキャラが、ハチマキを巻いて横浜のベイサイドを背景に右手を掲げている風の表紙だった。

 ってか、あの人めっちゃ絵がうまいな。

 と、俺は旅のしおりを読み進ていく。


「おいおいマジかよ……」


 まあ、ランドマークタワー展望台の定番は良いとして……。

 初日はオーケストラなんかもスケジュールに組まれている。これは姫様が音楽が好きだって言うデータを教えたからだろう。

 ちなみに――


 目的:異世界人を現代文明で徹底的にビビらせる(胸でもガチの殴り合いのケンカでも勝てないので)


 ――と、書かれている。


 負けず嫌いというか何というか……。

 まあ、おもてなしの方向性としては、決して間違いではないのでこれはスルーしておこう。 



 そして俺は二日目のスケジュールを見て絶句した。


「超大規模……同人誌即売会……だと?」








「ダイキさんっ!? 大量の人が――虐殺されていますっ! 見たこともないような巨大な魔物に混乱魔法をかけられて――人が自ら魔物の口に……物凄い勢いで食べられていますっ! 今すぐ助けないと――」


「姫さん。それバスだから」


 と、まあそんな感じで俺たちは横浜駅に向かうバスに乗り込んだ。



 今向かっているのは横浜駅だ。

 そこから地下鉄にのって、みなとみらい方面へ。

 まあ、俺たちの向かう先は横浜の名所であるランドマークタワーって訳だな。

 70階建てで高さは300メートル程度でアジアでも屈指の高さを誇るビルだ。


 そんでもって、展望台の眺めが物凄い良いんだよな。

 ちなみに姫様の服装は清潔感のある控えめなワンピースとなっている。

 エルフ耳については幻覚魔法でいくらでもごまかしが聞くということで、無駄に人目をつくこともなさそうだ。

 阿倍野先輩は何故か胸元を強調たような、若干……キャバっぽい感じの服装。

 レーラはヴィジュアル系というか、パンク系が少し入った原色系の派手な衣装だ。

 この系統は不細工がやったら痛いだけだが、顔の整った奴がやるとかなり映えるんだよな。

 で、ウチの妹は重ね着の古着系……というか、東南アジア系のスタイルとなっている。



 そうして俺たちは横浜駅に到着した訳だが……。 



「ダイキさん人がっ! 人がたくさんいますっ! 今日はお祭りか何かなのですか?」


「いや、祭りじゃねえぞ」


 休日の横浜駅なんて、そりゃあもう吐きそうになるくらいに人は多い。


「……人ゴミで気分が悪くなりました」


 まあ、これだけの人ゴミなんて、異世界じゃ滅多にお目にかかれねえもんな。

 しかもこの人は一応は姫様なので市井の民が作る、お祭りの人ゴミなんかには放り込まれたこともないだろう。


「しかしダイキさん。本当に少し気分が悪くなりました」


 青ざめた表情で姫さんは呟いた。


「おいおい大丈夫か? 姫さんがいきなりダウンしちまうと……」


 せっかく阿倍野先輩がツアーを考えたというのに、ここでツアー終了となると大変なことになる。

 と、そこで姫様はニコリと笑って――


「完全状態異常回復(パーフェクトヒール)」


 青ざめた表情が一瞬で元に戻る。

 そこで阿倍野先輩が大声を出した。


「ちょっと気分が悪いくらいで――最高位状態異常回復魔法を使わないでもらえるかしらっ!? それって裏社会の連中からすると神の御業以外の何物でもないのよっ!?」


 阿倍野先輩の大声を受けて、真理亜が小声で呟いた。


「……魔法? 言ってる意味分からないんですけど……マジでありえなくない?」


 さっきまで俺の横で手を握っていた真理亜がサーっと離れている。

 そういえばこいつは超常現象系の記憶が全て消去されてるんだったな。

 この前、みんなで飯食ってた時も、変な人が家にいる的な感じでみんなが怖いとか言ってたし……。


「コラっ! 阿倍野輝夜っ! 姫様に意見してんじゃないわよっ!」


 で、レーラが更に大声でわめき始めた。


「何よレーラ=サカグチっ!?」


「姫様は私の大事な人なのよっ! アンタみたいな下品なヤカラが姫様に絡んでんじゃないっつーのっ!」


 そうしてレーラは決め台詞を放った。


「良い? これは私の定めし私の法理の決定事項よっ!」


「ハァ? 前から思っていたのだけど、その決め台詞……全然決まってないことは理解しているわよね?」


「良い度胸してんじゃない。売ってるなら買ってあげるわよっ!」


 と、レーラが青筋を浮かべたところで、真理亜が更に俺たちからサーッと離れていく。


「……私の法理の決定事項って……マジで頭おかしくない?」


 そこで遠くの真理亜に視線を送った俺は、周囲に人だかりができていることに気が付いた。


「映画の撮影か何かか?」


「とんでもない美人揃いだが――」


「アイドルユニット……って感じでも無さそうだし」


 いかん、こいつ等4人が注目を集めだしている。

 ただでさえ目を剥くような美人揃いの一団が、ギャースカ騒いでいるんだから仕方ないんだけどさ……。



「でも、どうしてあんな美人の集団の中に冴えない男が……?」



 ――やかましいわっ!


 いや、まあ、事実ではあるんだけどな。

 っていうか、事実なだけに腹が立つことってあるよな。


「とりあえず移動を開始するぞ! 目立って仕方ないみたいだ」


 と、そんなこんなで俺達の観光ツアーが始まった。



「何です……かこれは?」


 300メートルの高度を誇るランドマークタワーを見上げながら、姫様はその場で跪いて放心状態となっている。


「このような巨大な城――見たことがありません」


「城っていうかビルな」


 まあ、姫さんにそれを言っても理解できねえだろうけどさ。

 そうしてしばらくの放心の後、姫さんはヨロヨロと立ち上がった。


「ダイキさん? この巨城はどのような魔術式で建築材の補強強化をしているのでしょうか? いえ……建材の魔術補強……それだけでは説明ができないほどの重さを支えているはずです。恐らくは、別口で……例えば、大規模儀式魔法で常時数十名体制で重力軽減を扱っているはずですね? 後学の為に、これだけの超巨大建築物を支える仕組みを教えてもらいたいのです」


「だからこの世界には魔法は無いんだって。うんと丈夫な建築材を組んでいるだけだ」


「え? 建築材を組み立てただけで……嘘? そんな馬鹿な……」


 俺がそう言うと、姫様はただパクパクと口を開閉させて茫然としている。


「建築関係の力学とか、建材の研究とかも進んでいるからな。仕組みは俺には分からん。すまねえが教えることはできないんだ姫様」


 そうして、俺は2度目の放心状態に陥った姫様の肩をポンと叩いたのだった。






「しかし、これを登るのは骨が折れるでしょう。70階建てですよ?」


 ランドマークタワー地階。

 物珍し気にキョロキョロキョロキョロと周囲を見渡しながら姫様はそう言った。


「いや、エレベーターに乗るんだぞ」


「えれべーたー?」


 キョトンとした表情を浮かべる姫様の手を引いてエレベーターまで連れて行ってやる。


 そうして俺たちはエレベーターに乗り込んだ。


「この箱に乗って70階まで一気に自動で上がるんだよ」


 そこで姫様はクスクスと笑い始めた。


「バカを言ってはいけません。魔法の力が無い世界で……これだけの人数とこれだけの大きさの鉄の箱を地上300メートルに運ぶなどと――重さにして何千キログラムとかいう世界でしょうに」


 と、そこでチンとエレベーターの音が鳴った。


「ついたぞ」


 高速エレベーターってめっちゃ早いんだよな。

 俺も子供の時に展望台に来たときは驚いたもんだ。


「だから馬鹿を言ってはいけません。魔法も使わずにどうしてそのような事が――あれ? でも、階層は移動したようですね? 人力で何十人かで、縄で引っ張って2階に持ち上げたのでしょうか?」


 と、姫様の手を引いて、少し歩くと――俺たちの眼前に展望台の大パノラマが広がったのだった。


「本当に……天空の世界が……広がって――」


 フラリと姫様はそのまま貧血のように倒れ込んだ。


「大げさなんだよ姫さんは。そんなに地球の技術は珍しいか?」


「いや、それはそうなん……です……けどね」


「けど?」


「私は高所恐怖症なんですよ。はは、見てくださいな。足がすくんでしまっています」


 そこで俺は呆れ笑いを漏らしてしまった。


「ってか、アンタだったらこの高さから落ちても問題ねーだろうよ」


 なんせ異世界最強の一角だからな。

 近接職じゃないけど、ステータスは化け物だ。

 実際、防御魔法をかけている状態だと、これくらいの高さから落下したところでかすり傷の一つも負わないだろう。


「いや、ダイキさん? そういう問題じゃありませんよ。私の場合、高所恐怖症とは……幼少の頃に世界樹の中腹から落下した時の精神的トラウマからきているのですから」


 世界樹? 

 ああ、あのめっちゃデカい樹か。

 確か、エルフ族は大樹の枝の上や樹内の窪みなんかを利用して居住空間を作るんだよな。

 まあ、大樹をマンションみたいな感じで使ってる感じというのが分かりやすい。


「あの……ダイキさん?」


「ん? 何だ?」


「足がすくんで歩けないので……腕を貸していただけないでしょうか?」


「ああ、構わんが?」


 そういうと姫様は俺の右手に両手を絡ませてきたのだった。

 そうして歩き始めると、俺はドギマギすることになる。

 腕に絡みつかれると、必然的にホルスタインも真っ青の姫様の巨大な両乳が――


「あの、姫さん?」


「はい? なんでしょうか?」


「胸……当たってる」


「それは不味いですね。でも、ダイキさん?」


「何だ? 姫さん?」


「こうしないと……足が震えて歩けないのです」


 なら、しゃあねえな。

 ある種、これは役得だと割り切る。

 こうなった以上は、俺は姫さんのオッパイの感触を甘んじて享受せざるを得ないだろう。

 と、そこで姫さんはキラキラとした瞳で遠くの景色を指さした。


「海も見えますよっ! 凄い眺めですねダイキさんっ!」


「ああ、アジア屈指の展望台だからな」


「アレは何でしょうか?」


「ああ、あれはタンカーだよ」


「タンカー?」


「船だ」


「――アレが船? あんな鋼鉄の巨大なモノが……水に浮かぶと?」


「ああ、そういうことだな」


「この世界……本当に恐ろしい技術ですね」


「ところで姫さん? やっぱり胸が当たってるんだが大丈夫か?」


「やむをえないでしょう」


 うん。

 やむをえないな。

 役得役得……と、ウッキウキ気分でそんなことを思いながら、周囲を見てみると――


 ――何か、他の女性陣の視線がスゲエ痛い。


 と、まあ、そんな感じで全員から凝視の視線を受けながら、俺たちは展望台を満喫したのだった。

と、そんなこんなで俺たちは音楽ホールに到着した。


 ちなみに、昼飯はバイキング形式だったのだが、阿倍野先輩が時間ギリギリまで居座った。

 最終的には吐きそうになりながらも、それでも高そうなモノを口に運び続ける姿には全員がドン引きだった。



 ――奇行さえなければ……美人なのに。



 と、主に阿倍野先輩のせいで時間を喰ったので、俺たちはコンサートの会場に少し遅刻して辿り着いた。

 普通、オーケストラとは言えば時間に遅刻してしまうと曲の切れ目にしか入れない。

 トイレに立つ場合なんかでもそうだな。

 何でかっていうと、マナーとして絶対的な静粛が求められるからだ。


 が、今回はかなりラフなスタイルの演奏会と言うことで、ドレスコードも存在しないし、いつでも入退室が可という珍しい感じだ。


 っていうか、ボーカロイドとか、あるいは演奏してみた系のサブカル色が強い内容となっている。

 俺としては、姫さんは音楽が好きってことで、異世界とも親和性が高そうなガチのクラシックとかの方が良いと思ったんだが――。


『私は――好きよ。ボーカロイド』


 阿倍野先輩のその一言で決定した訳だな。

 で、レーラも実はボカロ系が好きらしく、二人で異常に盛り上がってノリノリだった。


 っていうか……「姫様には日本の素晴らしいサブカルチャーを見せるべきだわっ! これは私の定めし私の法理の決定事項よっ!」とまで言う始末だった。



 そうして俺たちは1000人収容可の大ホールに入った訳だが、席に移動する際に姫さんはギョッとした表情を作った。


「どうしたんだ?」


 小声で尋ねると、姫さんもまた小声で応じてきた。


「これだけの大きいホールですが……音がどの場所でも一緒に聞こえるのですが?」


 と、そこで俺たちは席に腰を落ち着ける。


「ああ、反響音の調整だよ」


「反響……音?」


「ホール自体が一つの楽器と言う考え方があって、わざわざ大金をはたいて実寸10分の1スケールの模型を作って、実測テストなんかをすることもあるらしいな」


「そんなことが……この世界の人間は……何という……」


 青ざめた表情でそう言う姫さんに、俺は笑いながら尋ねた。


「執念染みた異常なこだわりとでも思ったのか?」


 そこでフルフルと姫さんは首を左右に振った。


「いいえ、文化にかけるその情熱――とても素晴らしいです」







 そんなこんなでプロの演奏者さんがサブカル系の音楽を奏でていた訳だが――


「ZZZ……」


 物凄い勢いで阿倍野先輩が寝ていた。

 曰く、「私はボーカロイドが歌うから好きなのであって、ガチのオーケストラでやられてもイマイチ……」とのことだ。

 いやいや、お前が企画したんだろ……と思いながら俺はため息をついた。


 自分の歓迎会みたいな観光ツアーで、そこで寝られると姫さんはどう思うか……まあ、人の気持ちなんて考えてねーんだろうな。


 そもそも、この人は、別に本当の意味では姫さんをもてなす気なんて欠片もないもんな。

 まあ、それは仕方ないか。


 けれど、レーラは違う。

 アリエルだった頃を俺は知っているから断言できるが、レーラは基本は人の気持ちが分かる良い子だ。

 しかも、姫さんがラブでもある。

 本当の意味でのおもてなしをする気もあるだろうし……その意味では先輩とは違うんだよな。

 そうして俺はレーラに視線を移し――


「ZZZ……」


 お前もかいっ!

 ってか、お前ら二人が妙に盛り上がってたから、ここに決定したんだろうが。


 と、そこで演奏は終盤に差し掛かり、趣向を変えて……ということでガチのクラシック系のメドレー曲が一曲演奏された。


 あ、これは流石に俺も眠くなる奴だ……と、必死に眠りを堪えていたところで演奏が終わり、休憩時間となった。

 危ない危ないと首を左右に振りながら、俺は姫さんに声をかけた。


「ロビーに出てコーヒーでも飲もう」






「で、どうだ? こっちの世界の音楽は?」


「心が躍るような軽快な音楽もあれば、先ほどのような重厚で荘厳な音楽もあります。色んな方向性で、でも、その全てが本当に素晴らしいです……息を呑むほどに」


 何か、姫様の瞳が潤んでいる。

 まあ、俺には分からん世界ではあるが、とにかく喜んでくれているようで何よりだ。


「ねえ、ダイキさん? 音楽って人間社会の縮図なんですよね」


「縮図っつーと?」


「最後のメドレー……いくつかの時代の曲も流れたんだと思います。それって、その時代の人たちが何を思いどう生きたのかって……そういう全てが詰まっているんですよ?」


「すまん、ちょっと俺には良くわからん」


「その時代に生きる全ての人たちの影響を受けて、それぞれの時代の天才たちがその時代の文化や社会の全てを反映させて一つの作品……社会全体の縮図として曲を残すということなのですよ」


「ふーむ。分かったような分からないような」


「いくら天才でもたった一人では何も残せない。色んなものに影響を受けて素晴らしい作品を残すものなのですよ。そして音楽は文化そのものであり、その時代に生きる人々の営みそのものなのです」


 そうして姫様は涙を流し始めた。


「この世界の文化の歴史と人の営み――それはとても美しい音色でした。それはこちらの世界が、とても素晴らしいということを意味しています」


「ああ、そう言って貰えると嬉しいよ。さて、それじゃあ席に戻ろうか」


 次の曲目が始まり、姫様は再度感動のあまりに涙を流し始めた。




 で――。


 寝息を立てている阿倍野先輩を見て、俺はクスリと笑った。

 そうして、「グッジョブ」と、心の中でそう思ったのだった。


 そうして、初日の観光ツアーは終了したのだった。 








「うおおおおおっ!」


『走らないでくださーいっ!』


「ぐおおおおおおっ!」


『走らないでくださーいっ!』


「ぬおおおおおおっ!」


『走らないでくださーいっ!』


「おい、押すなよっ! 痛いってっ! 押すなってっ!」


『走らないでくださーいっ!』


「くっそおおお! 初手ミスったああああっ! お気に入りのサークル、どんだけ並んでんだよっ! 同人誌買うってレベルの話じゃねーぞっ!」



 壮観の光景だった。

 同人誌即売会が開始され、ゲートが開くと同時に男の群れが我先へと駆け出し、それぞれのお目当ての同人誌へと走っていく。

 と、入場列の後方に並んでいた俺たち。

 そこで、阿倍野先輩はすまし顔でこう言った。 


「あれが……日本名物――男津波よ」


「日本全体の名物みたいにスケールを大きくしないっ! 物凄い局地的な現象ですからねっ!?」


「っていうか、とんでもなく汗くさいわね」


 レーラが絶句しながらそう言った。

 春先だというのに今日は30度近い気温で日差しもキツい。

 みんな長袖の上着を羽織っているから汗がとんでもないことになっていて――臭いもとんでもないことになっている。

 そこで、やはり阿倍野先輩はすまし顔でこう言った


「そう、これが……日本名物――男スメルよ」


「だから、日本全体の名物みたいにスケールを大きくしないっ! 物凄い局地的な現象ですからねっ!?」


 ってか……と姫さんに俺は恐る恐る尋ねてみた。


「何て言うかこう……物凄く濃い場所ですが大丈夫ですか? 臭いのも事実ですし……」


 そうして姫様はニコリと微笑を浮かべた。


「こんな臭いなんて、冒険途中に見かけた真夏の野ざらしの死体や、梅雨時の糞便塗れのオークの住処に比べれば全然マシですよ」


「比べる場所がおかしいっ!」


 まあ、この人は別に箱入りの姫様って訳でもないもんな。

 俺と一緒に世界中回ったし。


「それじゃあ森下君? 私達は着替えてくるわ」


「着替えてくる?」


 ええ、と阿倍野先輩はコクリと頷いた。


「コスプレ着替え室よ」






「うおおおおっ! 巫女さんだあああっ!」


「キターっ! 巫女キターーっ!」


「ミニスカ巫女キターーーっ!」


「オッパイでけええっ!」


 こっちは歩いているっていうのにカメラ小僧達がまとわりついてくる。

 ドヤ顔でポーズを決めながら阿倍野先輩は言った。


「以前にもここには来たことがあるけれど、私が巫女服を来ると男が大量に寄ってくるのよ」


「まあ、そりゃあ寄ってくるでしょうね」


 こんなに美人なコスプレーヤーなんて、滅多にお目にかかれないというレベルを超越しているだろうからな。

 奇麗なコスプレイヤーさんもたくさんいるけど、流石に阿倍野先輩レベルとなると一日探しても見つけることは難しいだろう。


「――まあ、チヤホヤされて……悪い気はしないわね」


 満更でもなさそうな表情で阿倍野先輩は微笑を浮かべる。


 と、そこで阿倍野先輩の周囲のカメラ小僧がざわつき始めた。


「おい、あっちの金髪の二人見てみろよ」


「すげえ……エルフと天使だっ! ってか、外国人超絶美人姉妹か何かかっ!?」


「ひっ、ひっ、ひんぬー最高っ!」


「ってか、あのエルフおっぱいデカすぎだろっ!?」


 阿倍野先輩の周囲を衛星の如くに回っていたカメラ小僧達はレーラと姫さんの方に向かっていく。

 つまりは、向かう先は魔装状態のレーラに、シスター姿の姫様だ。

 っていうか、阿倍野先輩も含めて全員が戦闘衣装なんだが、ここでやるとそのまんまの意味でコスプレになる。


「その翼どうやって作ったんですか? まるで本物みたいですね? あ、一緒にツーショット写真撮ってもらって良いですかっ?」


「ハァ? なんで私が見ず知らずのアンタ等なんかとツーショット写真撮らなくちゃいけないのっ!?」


「ツ、ツ、ツッ……ツンデレキターーーーーーっ!」


「つ、つ、ツンデレでござるっ! イ、イ、イ、イマドキ……まさかのツンデレでござるよーーーーっ! はい、キタコレ、キマシタコレっ! ツンデレキマシタっ!」


「ホッチャーーホーチャーーーーホチャアーーーーホワアーーーーホワアアアアアアアアアアっ!」


「ところでこちらのセクシーなお姉さまは一体……?」


「私ですか? 私はハイエルフと人間のハーフでプリーストですが?」


「ハイエルフキターーーーっ!」


「ハーフエルフキターーーーっ!」


「プっ、プっ、プリーストーーーーいただきましたーっ!」


「ホッチャーーホーチャーーーーホチャアーーーーホワアーーーーホワアアアアアアアアアアっ!」


 ってか、物凄いテンション高いなコイツ等。

 で、何だかんだで二人ともポーズを決めてカメラ小僧達にノリノリで応じている。


「ツーショットはアレだけど、集合写真なら取ってあげないこともないんだからねっ!」


「キタっ! キタコレっ! ハイコレキマシタっ! 天使キターーーーっ!」


「大・天・使・降・臨っ!」


「集合写真の前に、皆さん汗臭いので浄化魔法を……」


「浄化魔法キターーーーっ!」


「悪・霊・退・散っ! 悪・霊・退・散っ!」


「大・正・義プ・リ・ー・ス・トっ!」


「ホッチャーーホーチャーーーーホチャアーーーーホワアーーーーホワアアアアアアアアアアっ!」



 っていうか、カメラ小僧もこの二人も物凄く楽しそうだ。

 和気あいあいっていうのとはちょっと違うが、謎の一体感はスゲエある。


 と、阿倍野先輩に視線を移すと、先ほどまでの黒山の人だかりは完全に消えていて、阿倍野先輩がポツリと取り残されていた。


「……」


 頬を膨らませて、何か……物凄い不満そうだな。


「……チっ」


 ってか、舌打ちしやがった。

 コイツって本当に色々分かりやすいよな。


「それじゃあ森下君? 私はちょっと着替えてくるわ」


「着替え?」


「ええ、新しいコスプレに着替えるの。そして連中の――ド肝を抜いてやるわ」


 ニヤリと笑う阿倍野先輩。なんていうか、物凄い嫌な予感がする。






 ――と、先輩がコスプレ着替え室に消えて、10分が経過した。

 そして先輩が着替え室から出てくると同時――


「下着じゃねーかっ!」


 黒ブラに黒ショーツ姿の阿倍野先輩が、着替え室から出てきた瞬間に俺は頭をはたいた。

 絶対に何かをやると思ってたので、着替え室に張り付いていて良かった。

 警察呼ばれるところだったろ……と、俺はゲンナリする。



 それから――。

 オタ系趣味を持っている阿倍野先輩とレーラは口喧嘩をしながらも仲良く同人誌を見回って、それなりの戦利品を得ることができたようだ。


 と、まあ、そんなこんなで俺たちのツアー体験は終わったのだった。






そして最終日。

 姫様が異世界に帰る日になった。

 夕暮れの時刻、家で飯を食っていると、チャイムが鳴った。

 玄関に出てみると、そこにはやはり姫様の姿があった。

 隣のレーラの家から、荷物も引き払ったようで、旅行用のスーツケースを引いている。


「おう、姫さん。ボチボチ……帰るのか?」


「ええ」と姫様は頷いて、そして頬を真っ赤に染めて、覚悟を決めたように頷いた。


「――その前にお話があります。大事な……大事なお話です」


「大事な話?」






 サイド:ユーリカ=ハルトマン



 夕暮れの森林公園で、私とダイキさんはベンチで隣り合って座る格好となった。


「ダイキさん?」


「何だよ姫様……改まって?」


 自分でも顔が真っ赤に染まっているのが分かります。

 赤面症っていう訳でもないのですけど。まあ、それは仕方のない事だと思います。

 今から、私は帰る前に――ダイキさんに気持ちを伝えなければならないのですから。


「ダイキさんの世界は素晴らしいですね。観光ツアー……ありがとうございました」


「うん。本当にそう思ってもらえているなら嬉しいよ」


「ダイキさんも、アリエルも……そして他の皆様も本当に楽しそうでした」


「まあ、基本は頭がおかしい連中だけど、なんだかんだでみんな良い連中だよ。俺の大事な人たちだ」


「……大事な人……ですか」


「この世界に帰ってきた理由は、最初は家族に会いたかったからだったんだけどさ。でも、帰ってきてから色々と出会った人もいて、やっぱりその意味でも俺は帰ってきて良かったって思うよ」


「……」


 と、そこで私の頬から急速に熱が引いていくのが分かりました。


「ねえダイキさん? この世界が大好きですか?」


「ああ、みんながいるこの世界が大好きだ。姫様もそうだろ? アナスタシアや、他のみんながいる――あっちの世界がさ」


「……そうですね」


 私は儚げな微笑を――いえ、意図的に満面の笑みを作りました。


「ええ、私も私の世界が大好きですよ」


 そうなのです。


 ――もう、ダイキさんは私達の世界の住人ではないのです。


 いや、本当はダイキさんが最初から私達の世界の住人であったことなんて……ないのです。


 ここで気持ちを伝えて私は……どうするつもりだったのでしょうか。

 そんなことを言ってしまえば、ダイキさんは困ってしまいます。

 もしもダイキさんが私の気持ちを受け入れてくれたとしても、それは所詮は悲愛にしかなりません。


 私は、涙が零れ落ちそうになりそうなのを必死に堪えながら、無理やりに向日葵のような笑顔を咲かせました。


「本当に楽しかったです。お礼を言います」


 そうして私は次元の扉を開いて、自分の世界へと帰還したのでした。







 私の国――城の地下深くの一室。

 大魔術師アナスタシアの研究所は、いつも通りに書物と魔道具が散乱していました。


「おかえり姫様。で、どうだった?」


「――結局、言えませんでした」


「でしょうね。まあ、姫様の性格上、結局そうなると思ってたわ。でも、最後のチャンスだったかもしれないのに……残念だね」


「いいえ」と私は首を左右に振ります。


「伝える必要なんて、最初から無かったのですよ」


「……?」


「ダイキさんはあちらの世界の住人です。伝えたところで、報われる恋でもありませんし、それは彼に不要な動揺を与えるだけなのです。いえ、むしろ罪悪となります。だから――それで良いんです」


「本当にそれで良いのね?」


「――吹っ切れましたよ」


 と、アナスタシアは私を優しく抱きすくめました。



「じゃあ、どうして姫様は――泣いているの?」



「う……ぐ……」


 しゃっくりと嗚咽混じりの涙が、帰ってきてからずっと止まりません。


「分から……ない。泣いても……仕方……ない……の……に……止めら……ないのです」


 そうしてアナスタシアは私の頭を優しく撫でてくれました。


「姫様。辛い決断をしたんだね」


「……はい」


「私は好きよ。姫様のそういうところ。本当に――凄くね」


「……うん」


「泣きなさい姫様。泣くだけ泣けば楽になるから」


「わかり……ました……う……う……うぅ……うぅぅぅっ――っ」


 アナスタシアの胸を借りて、私は抑え込んでいた感情の奔流に身を任せました。


「ダイキさん……ダイキさん……」


 こんなにもあの人のことが好きなのに。

 どうして……気持ちを伝えることすらが……罪悪になるのでしょうか。

 どうして……気持ちを伝えもせずに身を引かなければならないのでしょう。


 ――そうしてアナスタシアはいつまでも、いつまでも私の頭を優しく撫で続けてくれたのでした。



サイド:森下大樹



『森下大樹っ! 今日は私の家に晩御飯を食べに来なさいっ! いつもいつもお邪魔するわけにはいかないからねっ! たまにはお礼の食事よっ!』


 レーラからそんなメールが来たのは夕暮れの下校途中だった。

 まあ、最近は毎日のように母ちゃんの飯をセラフィーナさんと一緒に食いに来てたからな。


「ってことで行ってくるわ」


「はいなのですー。あ、お土産にこれを持っていくのです」


 母ちゃんはバスケットに盛られたフルーツの盛り合わせを差し出してきた。


「ああ、ありがとう母ちゃん」


 そうして、俺はサカグチ家のドアを叩き、リビングに入った。


「森下大樹っ! まだご飯はできてないからテレビでも見ときなさいっ!」


「おう。あ、これ母ちゃんから」


 フルーツバスケットをテーブルの上に置いて、俺はソファーに座った。


「気を遣わなくてもいいのに……まあ、ありがたく頂いておくわっ!」


「あ、ダイキさん――これ、お茶です」


「おう、ありがとう姫さん」


 姫さんから茶碗を受け取り、俺はリモコンでテレビをつけた。

 ニュースがやってて、殺人事件の報道がされているところだった。


「ったく、物騒だよな」


「どこの世界にも殺人を犯すような人はいるのですね」


 お茶をすすりながら俺は頷いた。


「ああ、困ったもんだぜ。あっちの世界よりは犯罪発生率はこっちは大分マシだけどな――」


 と、そこで俺はブーーーーっとお茶を勢いよく噴き出した。


「姫さん……なんで普通にいるんだよっ!」


 ああ、そのことですかと姫さんはポンと掌を叩いた。


「アナスタシアが次元をつなげて、こちらとあちらを直結しました」


「……え?」


「厳密に言うと、今、アリエルの家は異世界の一部となっています」


「すまん、何言ってるかサッパリ分からん」


「次元転移が不味いのなら、次元転移をしなければ良いのです。こちらとあちらを直結させて、特殊結界でこの家をあちらの世界に引き込んだ……と言えば分かりやすいでしょうか?」


「えーっと……要約すると……異世界の領土をちょっと広げた……的な?」


「そうですね、それが一番分かりやすいでしょう。ただし、私はこの家から一歩も外に出れませんけれどね」


「レーラとかはどうなんの?」


「境界の領域的な意味合いになりますからね。私はあちらの世界のモノとして世界に認識されているので、玄関から外に出ると次元転移とみなされます。ただ、アリエルはこちらが長いので、もうこちらの住人と認識されていますからね。逆に言うと、アリエルやダイキさんは私の城へ続くドアを潜ることはできません」


「えーっと……つまり?」


「はい」と姫様は頷いた。


「これからは、ちょくちょくアリエルの家に遊びに来てくださいね。ダイキさんが来るときはできるだけ私もここにいるようにしますから。だからダイキさん――」


 と、姫様は俺に抱き着いてきて――。





 サイド:ユーリカ=ハルトマン




 ――厳密に言えばこれは世界連合で禁止されている禁術の一種です。

 でも、アナスタシア曰く「世界を救ったんだからそのくらいのワガママは許される。いや、許さない奴がいるなら、私が全員ぶっ飛ばすっ!」とのことで――。

 そして私もまた、泣きながらの決断をしたのです。


 ――やっぱり、好きなものは好きです。欲しいものは欲しいんです。


 だから――今回限りは、奥手な私にしては誠一杯の勇気を出して、力強くダイキさんに抱き着きました。

 そうして、無理やりにつくったものではない――満面の笑顔でこう言いました。



「ダイキさん――これからもよろしくお願いしますねっ!」



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ツイッターもやってます。

小説関連の新規投稿やネット小説サイト傾向やらアレコレ呟きますので、よろしくお願いします。

カクヨム内作者プロフィールのツイッターマークから直接リンクありますが、一応URLなど書いときます。


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新作やってます。


・タイトル

異国の地でイジメられて誰にも頼れないロシア美人のリーリヤさんを助けたら、なんか変なスイッチ入ったらしく料理教室に通い始めて毎日俺の家に料理作りに来るようになった件


・URL

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異世界帰りの勇者が現代最強! ~いじめられっ子だった俺が帰ってきてもファンタジーで異能バトル系少女をビシバシ調教することになった件~ 白石新 @aratashiraishi

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