アドラーネストの笑わぬ仔犬

　山と海に囲まれ、天然の要害によって数百年の独立を守り抜いてきた国、アルスラント皇国。資源にも恵まれ、周辺国から理想郷とも呼ばれるその国も、いつ終わるかも分からない戦争によって、軍や国民はひどく疲弊していた。

　幼い頃に両親を失い、ずっと軍に育てられた影響で、人としての感情を殆ど持たない少女レニャは、西の国境線近くにある街、ヘルセに着任する。そこは最前線から程近く、かつては活気のあった街もすっかり寂れ、集められた軍人も癖のある人ばかりだった。しかしレニャという不思議な少女がやって来たことで、基地や街の人々の心が少しずつ動かされていく。

　これはそんな辛い時代を生きた人々と、ちょっと不器用な少女が織り成す、決して記されることのない歴史の一頁。