ふたりのルーレット

朝山力一

恋の訴え

 ねえねえ、ちょっと、いい?

 5分で済むから。たった5分だよ、全然問題ないじゃんね。

 ね?

 とりあえず、部室棟の裏、行く? ほらここだと目立つし。

 別にいいなら、このまま立ち話でもいいけど。

 あっ、そう。わかった。

 じゃあ、落ち着いて聞いてね。

 実は、あのルーレットで、私と君が選ばれちゃいました。

 だから、今日から私は、あなたの彼女です。

 もちろん、2週間だけ。ここ大事なところなんだけど。

 なにその反応、ちょーうける。

 別にたった2週間だけだし、問題ないよね。もう決まったことだから仕方ないし、もっといえばさ、キスするわけでも、手をつなぐわけでもないから、実害なしっていうか、そんな感じで、別にいいじゃんね。

 えっ?

 ルーレットの時、いなかったって?

 まあいいじゃん別に、細かいことはさ。

 あれ君が作ったの? プログラミングの授業? そんなのあったっけ?

 ていうか、まじすごくない? びっくりなんだけど。天才かよ。

 乱数?

 へー、すごーい、そーなんだー。

 ちがうよ! 別に興味がないわけじゃないけど、ちょっと私には難しそうだなって思っただけ。

 ようは、偶然ってことだよね。そう、これは、神様の思し召し。純然たる偶然。私と君がペアになったのは、たまたま。

 やけに頷いてるけど、どうかしたの?

 ……。

 私、プログラムのことはよくわからないけど、インチキできないってことだよね。

 だから、これは、ほんとに偶然。

 うん。

 てか頷きすぎ。どうしたの?


 場所変える?

 う、うん、いいよ。

 あっでも、5分で済む話だし、このままでいいかも。

 うん。

 ありがとう。優しいね。


 もう、1分たっちゃった。なんだか、早いね。どうしてかな。

 ふーん。

 相対性とかよくわからないけど、もたもたしてると、あっという間に5分たっちゃうね。

 別に、いいの?

 な、なんで?

 これから予備校でしょ?

 君が、予備校に通ってるのは有名な話だよ。いやだなー、もう。

 あっ、今日は休みなんだ。そうなんだ。それは、知らなかった。

 で、でも、やっぱり5分で、大丈夫。お手間はとらせません。はい。


 さっきも言ったけどさ、ルーレットで私が君の彼女に決まって、これはもうしょうがないとして、やっぱり、2週間とはいえさ、恋人っぽいことをして、SNSに何かあげないといけないわけなんだけど、それがないと、「あいつら、やる気ねー」とか、「つまんねー」とか、言いたい放題にいわれて、さげすまれて、挙げ句の果てには、はぶかれて、いじめられて、机に『死ね』とか書かれるかもしれないでしょ。

 それは嫌だよね?

 なんとしても避けたいよね?

 うんうん。だよね。

 クラスの奴らがそんなことをするかって?

 それは、うーん、なさそうだけどさ、でも、こんなことで評判を下げるくらいなら、ちょっと、カップルっぽい写真撮って、いいねもらって、それで終わりでよくない?

 その写真を今から撮ろうと思って、ね? 5分で終わるでしょ。

 それだけで、たぶん大丈夫。ていうか、もう十分過ぎるくらいだと思う。

 ガチの子とかさ、ほぼ毎日、放課後、どっか行って、いろいろしてるみたいだけど。

 ほらみて、これ、田中舞子。すごくない? 佐伯君との距離とか、やばいし。てかこの2人は、2週間経って、そのあと本当に付き合ったんだって。それもこれも、もちろんこのルーレットが、きっかけなんだよ。すごくない?

 あっ知ってた? そっか、佐伯君と仲いいもんね。

 佐伯君ってさぁ、確かにかっこいいけど、でも、ちょっと優柔不断なところあるよね。だけどさ、ゴリゴリ押されると弱いらしくて、好きって言われると好きになっちゃうんだって。だからさ、舞子が、ぐいぐいいって、付き合ったみたいで、あのルーレットも、舞子が自分を四人くらい入れ——。

 ……。

 ……。

 もう2分経ったね。

 写真、撮ろうか?

 ん? なに?

 いいから、写真、撮ろうよ。

 はい。

 ——うん、うまく撮れた。あげるね。

 おっ、もういいねついた。

 舞子だし。暇かよ。てか最近の、舞子のSNSリア充すぎ。みてこれ。やってんなーって感じじゃない?

 私もさぁ、舞子様くらい積極的な性格だったら、いいんだけど……。

 君も結構、ネガティブな方じゃない?

 そうだよね。わかるわー。

 どうしたの?

 思い詰めたような顔してるよ。

 えっ? ルーレットの画面?

 そんな細かいこと気にしないでよ。別に2週間だけ、私が彼女でも、問題なくない? ふたりきりで、ほんのちょっと、一緒に過ごすだけだよ。それも、たった5分間だけ。やることといったら、ふたりで並んで写真を撮るだけ。全然、問題ないじゃん。

 はぁ? バグ? なにそれ。

 ……。

 うーん、バグってよくわかんないけど、ルーレットは、普通だったよ。おかしなところはなかったと思うけど、そういえば、誰かが、私と君の名前がルーレットに入ってる時は、絶対、私と君がペアになる、って不思議がってたかな。

 ん? どうしたの? 目、めっちゃ泳いでるよ。

 それがバグ、なの?

 なんで、そんなに慌ててるの? 変だよ、なんか。

 あっ、もう3分たっちゃった。

 まぁ写真は撮れたし、これで終わりで、いいよね? 一応、2週間だけど、3分で十分じゃない? もしもさ、誰かに何か言われたら、適当に、ごまかす感じで。

 ……で、でも、1枚だけじゃあ、やっぱり寂しいかな? 他のカップルはさ、まぁ、かりそめのカップルなんだけど、みんな、結構楽しくやってるんだよね。お茶したり、映画いったり、ご飯したり。もうこれ、本物のカップルじゃんって思うけど、みんな2週間経つと、あっさり別れちゃうんだよね。舞子は別だけど。

 でも、いい友達増えた、とかいって、みんな喜んでるみたい。

 そうだ! 私達も友達からはじめてみない?

 って私なに言ってるんだろう。

 あっ気にしないで! 今のなし、なしなし! つい口が滑ったっていうか、あれ、なに変な言い訳してるんだろう、私。

 ……。

 なんか言ってよ、沈黙って。やっぱいいや、何もいわなくて、大丈夫。

 ……ごめん。わけわからなくて。

 どうしたの?

 写真?

 君のスマホで?

 うん。いいよ。

 ちょっと、場所変える?

 そ、そうだよね。このままでいいよね。私が言ったんだよね。

 な、なんか近くない? 大丈夫?

 あっ、撮った?

 今の、嫌かも。

 もう一回とろ、ね?

 今度は、撮る時、なんか言ってね。

 はい。

 うん、バッチリ。

 その写真どうするの? あっ待ち受けにするんだ、へぇそうなんだ、ふーん。

 ああ、そうだよね。待ち受けにしちゃえば、カップル感でるもんね。

 

 おっ、もうすぐ4分経つみたい。

 あっという間だったね。

 バグ? またその話? もういいじゃん、済んだことなんだし。

 私と君がペアになっちゃうバグなんでしょ。あっ、でも、バグってことはさ、もう一回、やり直さないといけない、ってこと? でも、何回やっても、同じ結果になるらしいし、意味なくない?

 バグを直してから。

 うん、そうだよね。そうじゃないと、なんかインチキしてるみたいだもんね。でも、もう写真あげちゃったし、ほら、いいねも結構ついてるし、たぶん誰も気にしてないし、だから、このままに、しよっか。

 しつこいなー、バグの話はさ、もういいって!

 あっごめん、大きな声、出ちゃった。

 でもさ、どうしてそんなにバグのこと気にしてるの?

 なんか怪しいよ。

 あっ、わかった。自分のバグがクラスのみんなにバレるの嫌なんでしょ? 絶対そうだし。

 いいよ、誰にも言わないから。その代わり、舞子がルーレットでズルした話も、黙っててね。

 ズルって、あれだよ、自分と佐伯君を三人、四人だったかな? まあそれくらい入れて、ルーレット回したってやつ。マスは八個しかないのにさ、半分舞子で、半分佐伯君になってて、確定じゃんって、感じでさ、ルーレット回す意味ないし、って誰かが、爆笑してた。ちょーうける、そのルーレットの時、いなかったっけ?

 あっ、そっか、イカサマするから、みんなに声かけなかったかも。だってさ、佐伯君にバレたら、ちょっと微妙じゃない。

 え? 今回のルーレット?

 あー、それね。なんか、みんな忙しそうだったから、私とか舞子とか、それとなと何人かで、さっさと回しちゃったんだよね。少数精鋭みたいな? まっいいじゃん別に。

 佐伯君は、別に気にしてないって?

 なんでわかるの?

 えっ、嘘!

 その話、ほんと?

 じゃあ、ふたりは両想いだったってこと?

 うわー、なんかすごくない、それ。

 なるほどねー、佐伯君と舞子が、ルーレットに入ってる時は、絶対、ふたりがペアになるようにしたんだ、ふーん、そうなんだ……。


 なんかさ、それって、バグの話と似てない?

 あれ、気のせいかな。

 舞子が私で、佐伯君が君みたいじゃん。舞子の時も同じバグが起きたってこと? でもそれって君がプログラムをいじって仕込んだんでしょ、じゃあさ、私と君の時に起きたのは、本物のバグだったってこと?

 どうしたの、黙っちゃって。

 なんか言ってよー。

 あっ帰るの? でも予備校、休みでしょ。

 えっ! 一緒に?

 う、うん、全然いいけど。

 もしさ嫌だったら全然いいんだけど、せっかくだし、どっか行く? わ、私、行きたいところがあるんだけど……。

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