【物語の始まりは】
大聖堂の図書館での一場面から始まっていく。ある本をここに納本することに異を唱える若い助祭と司祭との会話によって、その本がどんな内容のものであるか明かされていく。そこにはギルという人物が、呪い師に呪われて不老になり、呪いをとかせるために100年以上も旅したと記されていた。その真意を探るべく、助祭はその本を読むことを許可されるのであった。そこにはどんなことが描かれているのであろうか?
【登場人物について】
群像劇であり。旅人ギルの視点からではなく、ギルに関わった人物の視点から語られていくようである。
補足〈個人的に調べた用語〉
アルビノ……目と皮膚と毛髪をはじめとした全身(眼皮膚白皮症)、または目のみ(眼白皮症)が、先天的にメラニン色素をつくれない、もしくは少ししかつくれない体質。(web調べ)
【良い点(箇条書き)】
・全体的に描写が美しい。優しい世界観である。
・ランプの元で本をめくっているような、暖かさがありドラマチック。
・確かに旅人が見聞きした物語なのだが、その主人公は旅人ではない為、彼らの切り取った人生の一ページのような印象。
・時間が戻っていくスタイルというのは面白い。
・一つの物語に一つのテーマがあるように感じた。
【物語の感想】
1 木こりと旅人
ここでの主人公となる少年は、強くなって名をあげたいと考えていた。だがそれは、周りから反対されていたようである。後半にて、元戦士だった祖父から語られる話。戦士とは何か。戦争とは何かについて考えさせられる。
戦争は、大義名分があり”国だったり財産だったり人だったり”色んなものを守るという名目で行われるが、それはただの人殺しに過ぎないのだ。
安易に強くなりたいというのは、危険であり将来を考えているとは言えない。主人公は祖父の過去を知り、改めて自分自身を見つめ直す機会を得る。
若いうちはどうしても、自分の世界が全てだと思いがちである。広い視野を得る為にも、先人の話を聞くことが大切であるということを改めて感じた。
2 商人と旅人
この物語は、もしかしたら段々と時間の戻っていくスタイルなのかもしれない。森を舞台に語られていくのは、ある商人の想い。きっとそれは、果たすことが出来なかったのだろう。しかしその想いはちゃんと子に伝わっていく。旅人の位置は決して中心というわけではなく見届けるというものなのかもしれない。しかし確実に関与し、人と人を結んでいるように感じた。
何故旅人が呪われてしまったのか、この時点では分らないが100年以上かけて色んな体験をし、人と関わっていったことは他の人間にとっても幸福をもたらしたのではないだろうか? そんなことを思った。
3 吸血鬼とアルビノの少女と旅人
うっとりとする美しい情景描写によって始まっていく。この物語は全体的に言葉選びが美しく、情景を一つとっても季節や自然を感じる部分が多い。
孤独だった二人が出逢う。長く生き続けるというのは孤独との戦いだと感じた。善行を続けていたからこそ、その中でこのような出会いがあったのではないかと思う。彼らがどんな答えを選んだのかは、ここでは明かされてはいないが幸せな二人の姿が見えるようだ。とても素敵な物語だと感じた。
*3つの物語まで拝読。
【物語全体の見どころ】
どれも感動する物語であり、人の愛情や優しさ。表面上では分らないものなどが語られていく。全体の中から三つの物語を拝読。その中で感じたのが、どれも全く違う物語であるが、人と人との絆だったり関りを大切にしている物語だと感じた。その関係も様々で、血のつながりもあれば同じ種族でない場合もある。そんな彼らのドラマチックな一面を垣間見ることのできる物語であり、旅をしている中で起きた出来事の一部というスタイルである。
どれも温かみを感じる物語。この本を手に取った助祭は、これらを目にし、一体どんな結論を導き出すのだろうか?
あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? 素敵な物語がたくさん詰まった作品です。お奨めです。
作者のEdyさんはレトロゲーム好き,ということ,そして,主人公の名前が「ギル」であるということ,これでもう面白くないはずながない! と確信して読んでやっぱり面白いです.
と言う資格が私にほんとにあるのか?
ええ,確かに読破はしたのですが,謎だらけなんです.そういえば,「赤い本①」にこうありました.
『細部まで徹底的に。わずかにつながった糸を紡ぎなさい。答えはそこにあります。もちろん、おとぎ話として楽しむのもいいでしょう』
そうです.これを書いている私はとりあえず「おとぎ話として楽し」んだ段階にすぎないのです.いや,楽しいですよ.出て来るキャラクターの名前とか……コーディ,ガイ,ジェシk……じゃなくてジェシー(市長さんがいないよ)とか.あとブラックオニキスとか渋いなー,とか,ぜんぜん本質をついてないところで楽しませていただきました.
で,この物語の本質は,「わずかにつながった糸を紡」がないとたどり着けないのです.そう,あたかも,各エピソードに隠された「謎」を解き,そこで解いた「謎」が次の「謎」につながり……これらをたどらないとFLOOR23……じゃないや,最終エピソードで詰むのです.「あれ,あれれ? なんか結末にたどり着いた??」って感じで終わります.(たまに辿らなくていい謎もあるのもそれっぽい)
というわけで,頑張って最初からやり込みしてきます.なにしろ,これは「ギル」の物語なのですから.
【2021/06/29 追記】もう一回やりこみしました.どうやら,読者の解釈によってグッドエンドにもバッドエンドにもなりそうです.グッドエンドにするためのフラグが,最終節と直接繋がっていないエピソードに隠されています.さすが,「ギル」の物語.
ファンタジー。
ただし、魔法は殆ど出てこない。
主人公ギルの、不老の呪いを受けてからの人生の足跡を読者は追う。
物語の主人公は間違いなく彼だがしかし、
オムニバス形式で進む物語で総て主役を張るのでは無く、
しかも各話の語り手は別個であり、ギルが端役で登場の回もある。
ギルは不老ではあるが不死では無い。
万能でも、卓越した知能を誇るでもない。
剣技体術に優れるが、云わば長寿経験故に自然と備わった年輪。
何故呪われ、何故その解呪を求めるのか。
不老を願う者も世にはある、
仙人など正にそれを道とする。
謎はしかし暫し脇に置き、
ギルと共にこの悠久の旅を、
時に楽しみ或いは苦闘し、選択に呻吟し数多の別れにそっと目頭を抑える。
酔いに任せるも偶には一興。
読み終えたとき、読者も少なからずその視座を拡げるのではないか。
読書による人生の拡張、本作はその醍醐味に満ちた一編である。
教会の秘密の図書室に納められている「赤い本」。若い助祭がその本と出会い、惹かれてしまうところから物語が始まります。
1〜3話ほどの、それぞれ別の登場人物の視点で語られる物語は、ひとつひとつがとても個性的で、時にはやんちゃな少年、あるいは磊落な酒場の主人、少しくたびれた兵士、そしてある時には人ではない吸血鬼の目線で——。
そんな個性的な登場人物たちの目を通して語られるのはそれぞれ違う時代、違う街。たったひとつ共通するのは、つば広帽子を被った謎の青年ギル。
この物語の素晴らしいところは、それぞれが独立した掌編でありながら、やがてその登場人物たちがあちこちで再登場し、少しずつ繋がっていくところです。読んでいるこちらも、お気に入りの登場人物を別のお話で見つけて、あ、あの人だ!と嬉しくなってしまったり。
いくつもの小さな物語が、やがて一つの大きな物語へと収斂していく、見事なハイ・ファンタジー。ぜひ、ゆっくりとひとつひとつの物語を楽しんでこの世界に浸り、その結末を見届けて欲しい一作です。
平凡だった男が呪われ、望まぬ不死となる。
その彼が長い旅路の行く末までに刻まれた足跡のひとつひとつが此処にある。
ひとつの揺るぎない目的があったればこそ、長い生で人の心を保てるのであろう。
人であったが故に、過ぎ去りゆく時の彼方で、出会い、触れ合った人々に一雫を残す。
出会った彼等、彼女等との係わりが、繋がりとなり、絆が結ばれる。
それが赤い本に綴られた物語。
彼の旅路がどの様に終わりを遂げたのかは些細なことだろう。
只の人として、人のまま時を渡り歩き、人として繋がり、人として選んだもの。
それこそが、最も大切なことであったと語られる旅の記録である。